近年、RIZINやUFCなどの大会が大きな盛り上がりを見せ、総合格闘技(MMA)に興味を持つ人が急増しています。「何でもあり」と言われるこの競技は、一瞬で勝負が決まるスリリングな展開が魅力です。
しかし、試合を見ていると「今、何が起きているの?」「なぜそこで止まっているの?」と疑問に思うことはありませんか。実は、選手たちが繰り出す一つひとつの動きには、深い戦略と技術が隠されているのです。
この技の意味や狙いを理解するだけで、ただの殴り合いに見えていた試合が、高度な頭脳戦へと変わります。この記事では、観戦が100倍楽しくなる主要なテクニックやルールについて、わかりやすく解説していきます。
総合格闘技の技は「打撃」「投げ」「寝技」の3要素で構成される
総合格闘技(MMA)は、ボクシング、キックボクシング、レスリング、柔道、柔術など、あらゆる格闘技の要素が融合したスポーツです。
そのため、使用されるテクニックは膨大な数にのぼりますが、大きく分けると「打撃」「投げ(テイクダウン)」「寝技(グラウンド)」の3つの局面に分類できます。
選手によって「打撃が得意なストライカー」や「寝技が得意なグラップラー」といったスタイルがあり、自分の得意な局面で戦うために技を駆使します。
「打撃」は試合の主導権を握る最初の攻防
試合が始まった瞬間、両者は立った状態(スタンド)からスタートします。ここで繰り広げられるのが、パンチやキックによる打撃戦です。
相手にダメージを与えてKOを狙うだけでなく、相手を下がらせて自分のペースを作ったり、次の展開へ持ち込むための布石としても使われます。
打撃で優位に立てば、相手は防戦一方になり、精神的にもプレッシャーを感じることになります。
「投げ技・組み技」が展開をガラリと変える
総合格闘技の最大の特徴は、打撃の攻防からスムーズに組みつき、相手を地面に倒す「テイクダウン」が認められている点です。
打撃が苦手な選手でも、この投げ技やタックルを駆使して相手を地面に引きずり込めば、一気に有利な状況を作ることができます。
逆に、倒されたくない選手はいかに倒されずに打撃を当て続けるかという「テイクダウンディフェンス」の技術が求められます。
「寝技」は一発逆転も可能なスリリングな沼
一度地面での攻防(グラウンド)になると、試合はまるでチェスのような緻密なポジション争いになります。
上になった選手はパンチを落としたり関節技を狙ったりでき、下になった選手はそれを防ぎながら脱出や逆転の技を狙います。
一見地味に見える膠着状態でも、数センチ単位で重心をずらしたり、手首を取り合ったりと、極限の技術戦が行われているのです。
スタンド状態で繰り出される主要な打撃テクニック
試合の大半を占めることも多いスタンド打撃戦では、ボクシングやムエタイ、空手などの技術が応用されています。
KO決着を生む派手な技から、ダメージを蓄積させる渋い技まで、知っておくと面白い主要な打撃技を紹介します。
基本中の基本にして奥義「ジャブ・ストレート」
ジャブは、前の手(構えた時に前に出ている手)で素早く打つパンチです。威力はそれほど高くありませんが、距離を測ったり、相手の出鼻をくじいたりするのに最も重要な技です。
一方、ストレートは後ろの手で腰の回転を使って強く打ち込むパンチで、クリーンヒットすれば一撃でダウンを奪えます。
上手な選手は、ジャブで相手のガードを崩し、見えない角度からストレートを打ち込むコンビネーション(ワンツー)を巧みに使いこなします。
近年流行の足殺し「カーフキック(ふくらはぎ蹴り)」
かつては太ももを蹴る「ローキック」が主流でしたが、近年、総合格闘技界で大流行しているのが「カーフキック」です。
これは膝から下、ふくらはぎの筋肉や神経を狙って蹴る技です。太ももに比べて筋肉が薄いため鍛えることが難しく、まともに受けると足が麻痺して立てなくなってしまいます。
数発もらうだけでステップが踏めなくなり、試合続行不可能に追い込まれることも珍しくない、非常に恐ろしいテクニックです。
一撃必殺の破壊力「ハイキック・膝蹴り」
ハイキックは相手の頭部を狙って蹴る大技です。首やこめかみにヒットすれば、意識を断ち切るほどの衝撃を与えます。
また、接近戦で威力を発揮するのが膝蹴り(ニーキック)です。相手がタックルに来た瞬間に合わせる「飛び膝蹴り」は、カウンターとして決まれば劇的なKOシーンを生み出します。
これらの技は動作が大きいため隙も大きいですが、その分当たった時のリターンは計り知れません。
血の雨を降らせる「肘打ち(エルボー)」
ボクシングにはなく、総合格闘技やムエタイ特有の危険な技が肘打ちです。人間の体の中で最も硬い部位の一つである肘を、至近距離から叩きつけます。
その威力もさることながら、肘打ちの最大の恐ろしさは「相手の皮膚を切り裂く」ことにあります。
鋭角に擦るように当てることで顔面をカットさせ、流血によるドクターストップ(TKO勝利)を呼び込むことができるのです。
ワンポイント:サウスポー構えの有利性
通常、右利きの選手は左手を前にする「オーソドックス」、左利きの選手は右手を前にする「サウスポー」で構えます。サウスポーの選手は数が少ないため、対戦相手が慣れていないことが多く、独特の角度からの攻撃が当たりやすいと言われています。
相手を地面に倒して有利なポジションを作るテイクダウン

打撃戦から寝技へと移行するための架け橋となるのが「テイクダウン」です。
この技術が高い選手は、「いつでも倒せる」というプレッシャーを相手に与えることで、打撃戦でも優位に立つことができます。
多くの選手が多用する「タックル(シングル・ダブル)」
レスリング出身の選手が得意とするのが、相手の足元に飛び込んで倒すタックルです。
両足をとって持ち上げたり押し倒したりする「ダブルレッグダイブ(両足タックル)」と、片足だけを抱えてバランスを崩させる「シングルレッグダイブ(片足タックル)」が代表的です。
タックル成功の鍵は、相手の打撃をかいくぐり、一瞬で懐に入り込むスピードとタイミングにあります。
柔道やサンボの技術が光る「投げ技」
相手と体が密着した状態(クリンチ)から、柔道のような足技や腰技を使って投げることもあります。
足を払って転ばせたり、腰に乗せて投げ飛ばしたりするほか、相手の背後に回って後方へ反り投げる「ジャーマンスープレックス」のような大技が出ることもあります。
投げ技は観客を沸かせるだけでなく、相手を背中から強く叩きつけることで大きなダメージを与える効果もあります。
金網やロープ際での攻防「クリンチワーク」
派手な技ではありませんが、勝敗を大きく左右するのが「金網(ケージ)際」や「ロープ際」での押し合いです。
相手を金網に押し込むことで動きを制限し、体力を削りながらコツコツと打撃を入れたり、テイクダウンのチャンスを伺ったりします。
これを「ケージレスリング」とも呼び、現代MMAにおいては必須のスキルとなっています。一見地味ですが、ここで主導権を握った方が試合をコントロールすることが多いです。
試合の決着を左右する寝技とポジションの重要性
グラウンドの攻防では、「どちらが有利な体勢(ポジション)を取っているか」が非常に重要です。
基本的に「上になっている選手」が有利ですが、足の位置や体の向きによってその有利度は大きく変わります。
圧倒的有利な状態「マウントポジション」
仰向けになった相手のお腹の上に、馬乗りの状態で座っている体勢を「マウントポジション」と呼びます。
上の選手は体重をかけて相手を抑え込みながら、重力を利用した強力なパンチ(パウンド)を落とし放題になります。
下の選手は逃げることが非常に難しく、そのまま殴られ続けてレフェリーストップになることも多い、絶体絶命のポジションです。
背後から攻める最強の形「バックポジション」
マウントポジション以上に決着率が高いのが、相手の背後につく「バックポジション(バックマウント)」です。
相手は自分を攻撃してくる敵を見ることができないため、防御が極めて困難になります。
この状態からは、首を絞める技(チョーク)や、無防備な顔面へのパンチが非常に決まりやすく、取られた時点で「ほぼ詰み」と言われるほど危険な状態です。
下からでも反撃のチャンスがある「ガードポジション」
仰向けの選手が、上にいる相手の腰や胴体を自分の両足で挟んでいる状態を「ガードポジション」と言います。
一見、下になっているので不利に見えますが、実はこの体勢は「防御&反撃」のためのポジションです。
足を使って相手との距離をコントロールしたり、下から関節技や絞め技を仕掛けたりすることができます。ブラジリアン柔術の使い手は、あえて自分から下になり、このガードポジションから多彩な罠を仕掛けることもあります。
相手を降参させるサブミッション(関節技・絞め技)
打撃によるKOと並んで、総合格闘技の華となるのがサブミッション(一本勝ち)です。
関節を逆方向に曲げたり、首を絞めて脳への血流を止めたりして、相手に「参った(タップアウト)」をさせます。
格闘技の代名詞とも言える「腕ひしぎ十字固め」
相手の肘関節を伸ばして極める、最も有名な関節技の一つです。テコの原理を使うため、力が弱い選手でも正しく形に入れば、屈強な大男の腕を折ることが可能です。
マウントポジションから移行したり、ガードポジションから下から仕掛けたりと、あらゆる局面から狙える汎用性の高さも魅力です。
技が決まった瞬間、肘が伸びきって危険な状態になるため、観客席からもわかりやすく盛り上がる技です。
首を絞めて意識を断つ「リアネイキドチョーク(裸絞め)」
バックポジションから相手の首に腕を回し、頸動脈を圧迫して絞め落とす技です。英語では「Rear Naked Choke(背後からの裸の絞め)」と呼ばれます。
柔道で言う「裸絞め」や「スリーパーホールド」に近い技ですが、総合格闘技でのフィニッシュ率は極めて高く、「王道の必殺技」と言えます。
正しく入ると数秒で意識が落ちてしまうため、かけられた選手は一瞬の判断でタップしなければなりません。
足の関節を狙う危険な技「ヒールフック・アンクルホールド」
近年、技術体系が急速に進化しているのが「足関節技(レッグロック)」です。
アキレス腱を固める技だけでなく、膝を捻る「ヒールフック」などは、靭帯断裂などの大怪我に直結する危険な技です。
一瞬で勝負が決まるため「足の取り合い」は非常にスリリングで、現代MMAの最先端の攻防とも言えます。
相手の頭と片腕を足で挟み込む「三角絞め」
ガードポジション(下になった状態)から、相手の首と片腕を自分の両足で三角形を作るように挟み込んで絞める技です。
脚力を使って頸動脈を圧迫するため、腕の力よりも強力に絞まります。
不利な体勢から一発逆転を狙える代表的な技で、劣勢だった選手がこの技で王者を破るシーンは数々の名勝負を生んできました。
知っておきたい反則行為と試合のルール
「何でもあり」と言われる総合格闘技ですが、スポーツとしての公平性と選手の安全を守るために、厳格なルールが定められています。
反則を知ることで、レフェリーがなぜ試合を止めたのか、なぜ減点されたのかが分かるようになります。
選手の安全を守るための「反則技」とは
主要な団体で共通して禁止されている危険な攻撃には、以下のようなものがあります。
- サミング(目潰し):指が目に入ること。故意でなくても反則や一時中断の対象になります。
- 金的攻撃(ローブロー):股間への攻撃。男性選手の場合、ファウルカップ(防具)をつけていますが、強烈に入ると試合が止まります。
- 後頭部への打撃:脳や脊髄への深刻なダメージを防ぐため、頭の後ろへの攻撃は禁止されています。
- 噛みつき・ひっかき:スポーツマンシップに反する行為は厳禁です。
決着がつくパターン「KO・一本・判定」の違い
試合の決着方法は大きく分けて3つあります。それぞれの違いを整理しておきましょう。
| 決着方法 | 内容 |
|---|---|
| KO(ノックアウト) | 打撃を受けて意識を失ったり、立ち上がれなくなったりした状態。 |
| TKO(テクニカルKO) | レフェリーや医師が「これ以上は危険」と判断して試合を止めること。 |
| 一本(サブミッション) | 関節技や絞め技で相手がタップ(降参)するか、失神した場合。 |
| 判定 | 制限時間内に決着がつかなかった場合、審判員(ジャッジ)が採点で勝敗を決める。 |
団体によって異なる「ルールやリングの形状」
総合格闘技には世界統一のルールがなく、団体によって細かな違いがあります。
例えば、アメリカのUFCなど多くの団体では、グラウンド状態の相手の頭部を蹴る「サッカーボールキック」や「膝蹴り」は反則です。
一方、日本のRIZINではこれらの攻撃も認められており、より過激でダイナミックな展開が見られます。
また、戦う場所もボクシングのような四角い「リング」を使う団体と、金網で囲まれた「ケージ(オクタゴンなど)」を使う団体があり、それによって戦い方や戦略も大きく変わります。
メモ:ユニファイドルール
北米を中心に採用されている世界標準のルールのことを「ユニファイドルール」と呼びます。UFCなどがこれを採用しており、選手の安全性を重視した設計になっています。
総合格闘技の技を理解して観戦レベルを上げましょう

総合格闘技の技は、一見すると野蛮な殴り合いに見えるかもしれませんが、その裏には物理学に基づいた身体操作と、相手の思考を読む心理戦が隠されています。
「なぜ今ローキックを蹴ったのか?」「なぜあの体勢から逃げ出せたのか?」
基本的な技の名前と効果を知るだけで、選手の意図が手に取るように分かり、試合観戦の興奮は何倍にも膨れ上がります。
打撃のインパクト、寝技の駆け引き、そして一瞬で訪れる決着。ぜひこれからは「技」に注目して、総合格闘技の奥深い世界を堪能してください。



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