「格闘技の試合を見ていて、あのかっこいい技を自分もやってみたい」「運動不足解消に何か新しいことを始めたいけれど、格闘技は敷居が高そう」そのように感じている方は多いのではないでしょうか。
実は、テレビや動画で見かけるプロの動きの中にも、格闘技の技で初心者でも実際にできるものはたくさんあります。特別な才能や筋力がなくても、体の使い方のコツさえ掴めば、誰でも安全に楽しみながら習得することが可能です。
この記事では、初心者の方が今日からでもトライできる基本的な技の紹介から、それを習得することで得られるメリット、そして自宅での練習方法までをやさしく丁寧に解説していきます。新しい趣味として、あるいは自分を守るスキルとして、格闘技の世界への第一歩を一緒に踏み出してみましょう。
格闘技の技で初心者でも実際にできるものは意外と身近にある
格闘技と聞くと、空中で回転したり、複雑な関節技を極めたりといった、高度な身体能力を必要とする動きをイメージするかもしれません。しかし、すべての技が難しいわけではありません。多くの格闘技の基礎となる動きは、非常に理にかなっており、初心者でも手順を追えば「実際にできる」ものが数多く存在します。ここでは、打撃系、組み技系、そして護身術の観点から、初心者が最初に取り組むべき代表的な技を紹介します。
ボクシングの基本にして奥義「ジャブ・ストレート」
もっともシンプルで、かつ奥が深い技がボクシングの「ワンツー(ジャブとストレート)」です。これは誰でも形を真似しやすい動きですが、正しく行うことで全身運動になります。
まず、「ジャブ」は構えた前の手(右利きなら左手)を素早く真っ直ぐに伸ばす技です。相手との距離を測ったり、牽制したりするために使います。腕の力だけで打つのではなく、前足を踏み込みながら、腰を少し回転させるのがポイントです。力む必要はなく、ムチのように「パチン」と弾くイメージで出します。
次に「ストレート」は、後ろの手(右利きなら右手)を強く打ち込む技です。ここで重要なのは、後ろ足のつま先を地面にねじ込むように回転させ、その回転力を腰、肩、そして拳へと伝達させることです。手打ちにならず、体幹を使って打つことで、初心者でも驚くほど重いパンチが打てるようになります。
【ワンツーの練習手順】
1. 足を肩幅に開き、利き手側の足を一歩引いて斜めに構えます。
2. 脇を締め、拳を顎の横にセットしてガードを固めます。
3. 「シュッ」と息を吐きながら、前の手を伸ばします(ジャブ)。
4. ジャブを戻すと同時に、腰を回しながら後ろの手を伸ばします(ストレート)。
5. 打った後は必ず元の顎の横の位置に拳を戻します。
この一連の動作は、二の腕の引き締めやウエストのシェイプアップにも非常に効果的です。
キックボクシングの爽快な一撃「ローキック」
足技の中で、初心者が最も習得しやすく、かつ実戦的なのが「ローキック」です。ハイキックのように柔軟性がなくても問題なく、体の硬い方でも強力な武器になります。
ローキックは相手の太ももを狙って蹴る技です。サッカーボールを蹴る動作とは異なり、自分のスネの硬い部分を相手の太ももの筋肉にぶつけるイメージで行います。ポイントは「棒立ちにならないこと」です。軸足(蹴らない方の足)の膝を少し曲げ、つま先を外側に向けながら踏み込むことで、股関節がスムーズに回り、体重の乗った重い蹴りになります。
また、蹴る瞬間に、蹴る足と同じ側の手を大きく振り下ろすことで、バランスを取りつつ遠心力を加えることができます。サンドバッグやキックミットに「バチン!」と良い音が鳴った時の爽快感は格別で、ストレス発散には最適の技と言えるでしょう。
柔道・柔術の安全を守る盾「受け身」
「技」というと相手を攻撃するものばかりを想像しがちですが、格闘技において最も重要で、かつ初心者が最初に「できる」ようにならなければならないのが「受け身」です。これは自分の身を守るための防御の技術です。
柔道や合気道、ブラジリアン柔術などの組み技系格闘技では、投げられたり転んだりした際に、頭や内臓への衝撃を防ぐために受け身をとります。最も基本的な「後ろ受け身」は、体育の授業で習ったことがある方もいるかもしれません。背中を丸め、おへそを見ながら後ろに転がり、背中がマットに着く瞬間に両手で畳やマットを強く叩きます。
この「叩く」動作によって衝撃を手に逃がし、体へのダメージを軽減します。日常生活で転倒しそうになった時にも、とっさに頭を守る動きができるようになるため、格闘技を習うことの大きなメリットの一つです。
護身術としても使える「手首の離脱法」
力を使わずに相手を制する、護身術的な技も初心者におすすめです。特に、相手に手首を強く掴まれた状態から逃れる「手首の離脱法(外し技)」は、女性や子供でも実践可能です。
人間が手で物を掴むとき、親指と他の4本の指で輪を作ります。この構造上、親指と人差し指の間には必ず「隙間(切れ目)」が生まれます。どれだけ力が強い相手でも、この親指側の隙間方向へ力を加えると、驚くほど簡単に掴んでいる手が外れます。
具体的には、掴まれた側の手を開いて手刀を作り、自分の肘を相手にぶつけるようなイメージで、テコの原理を使って親指の方向へ一気に引き抜きます。これは「合気道」や「少林寺拳法」などの武道でよく見られる動きですが、原理さえ理解すれば誰でも再現可能です。力対力で対抗しない、という格闘技の知的な側面を体験できるでしょう。
初心者が格闘技の技を習得するメリットとは

単に「かっこいい動きができるようになる」というだけでなく、格闘技の技を練習することには、心と体に多くのポジティブな変化をもたらすメリットがあります。これらは、ジムに通い始めて数ヶ月という早い段階で実感できることが多いです。
全身運動によるダイエットとシェイプアップ効果
格闘技の動きは、有酸素運動と無酸素運動(筋力トレーニング)が絶妙に組み合わさっています。例えば、ボクシングのパンチは腕だけでなく背中や腹筋を使い、キックボクシングの蹴りは太ももやお尻の大きな筋肉をダイナミックに使います。
また、構えの状態を維持するだけでも常に体幹(インナーマッスル)が刺激され、基礎代謝が向上します。一般的なジョギングやウォーキングと比較しても、単位時間あたりの消費カロリーが高い傾向にあり、「短期間で体が引き締まった」「ウエストにくびれができた」という声が多くの初心者から聞かれます。楽しく技を練習しているうちに、自然と理想のボディラインに近づけるのが大きな魅力です。
ストレス発散とメンタルヘルスの向上
現代社会において、日常生活で「何かを思い切り殴る・蹴る」という行為はまずあり得ません。しかし、格闘技のジムでは、ミットやサンドバッグに向かって全力をぶつけることが許されています。
ミットにパンチやキックが綺麗に当たった時の音と感触は、脳内に快感物質を分泌させ、溜まったストレスを一瞬で吹き飛ばしてくれます。仕事や人間関係でモヤモヤしていても、練習が終わった後には「悩んでいたことがどうでもよくなった」と感じるほど、頭がスッキリします。このように、メンタルヘルスの維持・向上という面でも、格闘技は非常に優れたツールとなります。
いざという時に身を守る自信につながる
実際に喧嘩をするわけではなくても、「自分には戦う技術がある」「身を守る術を知っている」という事実は、静かな自信となって心に余裕をもたらします。
格闘技を学ぶことで、危険な状況を察知する能力や、相手との適切な距離感(間合い)をとる感覚が養われます。この「余裕」があることで、日常生活でのトラブルに対しても落ち着いて対処できるようになりますし、過度にビクビクすることがなくなります。強さは優しさにつながると言われるように、自分に自信を持つことで、他人に対しても寛容になれる効果が期待できます。
初心者におすすめの格闘技ジャンルと特徴
「格闘技」と一口に言っても、その種類は多岐にわたります。それぞれに特徴があり、向き不向きも異なります。ここでは、初心者が特に始めやすく、技を習得しやすい人気のジャンルを3つ紹介します。
キックボクシング:フィットネス感覚で人気
現在、最も初心者人気が高いのがキックボクシングです。パンチとキックの両方を使うため全身運動としての効果が高く、おしゃれなジムや女性専用クラスが増えているのも特徴です。
音楽に合わせて動く「キックボクササイズ」のクラスを設けているジムも多く、怖い・痛いというイメージとは無縁の環境でスタートできます。ミット打ちはトレーナーとコミュニケーションを取りながら行うため、楽しみながら技術を向上させることができます。運動量が多く、汗をたくさんかきたい方におすすめです。
ブラジリアン柔術:力がいらないゲーム性
「寝技のチェス」とも呼ばれるブラジリアン柔術(BJJ)は、打撃がなく、組み技と寝技が中心の格闘技です。道着(ギ)を着用して行います。テコの原理や体の構造を利用して相手を制するため、小柄な人や女性でも大柄な男性に勝つことが可能です。
パンチやキックで顔を殴られる心配がないため、顔に傷を作りたくない社会人にも人気があります。技のロジックを理解し、パズルのように攻略していく知的な面白さがあり、ハマる人が続出しています。怪我のリスクをコントロールしながら、スパーリング(実戦練習)を日常的に行えるのも魅力です。
空手・少林寺拳法:型(かた)で美しく動く
日本の伝統的な武道である空手や少林寺拳法は、「型(かた)」の練習を重視します。決められた手順通りに技を繰り出す練習は、一人でも集中して取り組むことができ、姿勢や所作が美しくなります。
「礼に始まり礼に終わる」という精神修養の側面も強く、心を落ち着けたい方や、礼儀作法も合わせて学びたい方に適しています。道着を着て帯を締めることで、気持ちが引き締まる感覚も武道ならではの良さです。
【初心者向け格闘技ジャンル比較表】
| ジャンル | 主な動き | 運動量 | 接触度 | おすすめタイプ |
|---|---|---|---|---|
| キックボクシング | パンチ・キック | 大 | 中 | ダイエット・ストレス発散したい人 |
| ブラジリアン柔術 | 投げ・寝技 | 中 | 高(密着) | 頭を使ってゲーム感覚で楽しみたい人 |
| 空手・伝統武道 | 突き・蹴り・型 | 中 | 低(型中心) | 美しい所作や礼儀も学びたい人 |
自宅でも練習できる基本的な動作とポイント
ジムに通う時間が取れない日や、少しでも早く上達したい場合は、自宅での練習が効果的です。ただし、間違ったフォームで練習すると変な癖がついたり、家具を壊したりする恐れがあるので注意が必要です。ここでは自宅で安全に行える練習メニューを紹介します。
鏡を使ったフォームチェックとシャドー
格闘技の練習で最も基本となるのが「シャドー」です。鏡(全身鏡がベスト)の前に立ち、自分の構えやパンチの軌道を確認します。
初心者が陥りやすいミスとして、「ガードが下がっている」「アゴが上がっている」「脇が開いている」といった点があります。鏡の中の自分と目が合うようにアゴを引き、ジャブを打った時に反対の手が下がっていないかなどを一つ一つチェックしましょう。最初はスローモーションのようにゆっくり動くことが大切です。ゆっくりできない動きは、速くしても正しくできません。
体幹を鍛える基礎トレーニングの重要性
どんな技も、土台となる体幹が弱ければ威力が半減してしまいます。自宅では、特別な器具を使わない自重トレーニングで体幹を強化しましょう。
特におすすめなのが「プランク」です。うつ伏せになり、肘とつま先だけで体を支えて一直線にキープします。これでお腹周りのインナーマッスルが鍛えられ、パンチやキックの際のバランスが良くなります。また、下半身を鍛える「スクワット」も必須です。パンチの威力は腕ではなく、下半身から生み出されるため、太ももとお尻の筋肉は格闘技のエンジンとなります。
ストレッチと怪我予防の準備運動
体が硬いと、思ったように足が上がらなかったり、思わぬ怪我につながったりします。特にお風呂上がりなど、体が温まっている時のストレッチを習慣にしましょう。
股関節の柔軟性は、キックの高さや動きの滑らかさに直結します。開脚ストレッチや、肩甲骨周りをほぐすストレッチを入念に行います。肩甲骨が柔らかくなると、パンチのリーチ(届く距離)が伸び、肩こりの解消にもつながります。
ジムや道場に通う前に知っておきたい心構え
「実際に技を習ってみたい!」と思ったら、やはり専門のジムや道場に通うのが一番の近道です。しかし、初めての場所に行くのは勇気がいるものです。失敗しないためのポイントをいくつかお伝えします。
必要な道具とウェアの選び方
最初から高価な道具をすべて揃える必要はありません。多くのジムでは、グローブやレガース(すね当て)のレンタルを行っています。
まずは、動きやすいTシャツと短パン(またはジャージ)があれば十分です。女性の場合は、胸の揺れを抑えるスポーツブラの着用を強くおすすめします。靴が必要なボクシングジムもあれば、裸足で行うキックボクシングや柔術のようなジムもあります。入会前に必ず確認しましょう。マイグローブを買うのは、体験を終えて「続けられそうだ」と思ってからで全く遅くありません。
見学や体験入会で雰囲気を確認する
ジムによって雰囲気は千差万別です。「プロ選手育成」に力を入れているストイックなジムもあれば、「フィットネス・ダイエット」中心の和気あいあいとしたジムもあります。
Webサイトの写真だけでは分からない「空気感」を知るために、必ず見学か体験入会を申し込みましょう。チェックポイントは、「更衣室や水回りが清潔か」「インストラクターが初心者にも丁寧に教えているか」「会員さんたちが楽しそうにしているか」です。自分がその場所にいて居心地が良いかどうかが、継続するための最大の鍵となります。
メモ:
「初心者クラス」や「入門クラス」の時間帯を狙って見学に行くと、自分と同じレベルの人がどのような練習をしているか具体的にイメージできます。
無理をせずマイペースに続けるコツ
張り切って最初から週に何回も通おうとすると、急な運動で体を痛めたり、疲れて嫌になったりしてしまいます。初心者のうちは「週1〜2回」程度を目安に、「もう少しやりたいな」と思うくらいで切り上げるのが長く続けるコツです。
筋肉痛がひどい時は無理に行かず、休むことも立派なトレーニングの一部です。格闘技は一朝一夕で強くなるものではありません。昨日の自分より少しだけフォームが綺麗になった、少しだけスタミナがついた、という小さな成長を楽しむ心の余裕を持ちましょう。
まとめ:格闘技の技は初心者でも実際にできる!まずは簡単な動きから始めよう

今回は、「格闘技の技で初心者でも実際にできるものは?」という疑問に対し、具体的な技やジャンル、練習方法について解説しました。記事の要点を振り返りましょう。
- 初心者でもできる技は多い:ジャブ、ローキック、受け身などは、運動経験がなくても始めやすい技です。
- 心身へのメリットが大きい:ダイエット効果だけでなく、ストレス発散や自己肯定感の向上にも役立ちます。
- 自分に合ったジャンルを選ぶ:フィットネスならキックボクシング、ゲーム性なら柔術、精神修養なら武道など、目的に合わせて選びましょう。
- 自宅練習はフォーム重視で:鏡を見たシャドーや体幹トレーニングは、家でも安全に行えます。
- 無理なく楽しむことが大切:最初から完璧を目指さず、週1回からでも「楽しむこと」を最優先に続けましょう。
格闘技は「怖い・痛い」だけのものではなく、誰でも自分のペースで楽しめる奥深いスポーツです。まずは自宅で動画を見ながらジャブの真似事をしてみるだけでも、立派なスタートです。あなたも今日から、格闘技のある生活を始めてみませんか?



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