コナー・マクレガーという名前を聞けば、多くの人が「UFC最大のスター」や「悪名高きカリスマ」といったイメージを思い浮かべるでしょう。アイルランドから彗星のごとく現れ、またたく間に世界中の格闘技ファンを熱狂させた彼のキャリアは、まさに映画のような劇的な展開の連続です。マクレガーの戦績には、単なる勝敗の数字だけでは語り尽くせない、数々の伝説的な瞬間が刻まれています。
この記事では、マクレガーの戦績を詳しく振り返りながら、彼がどのようにしてスターダムを駆け上がり、どのような激闘を繰り広げてきたのかを解説します。フェザー級での圧倒的な強さから、階級を超えた挑戦、そして世界を揺るがしたボクシングマッチまで、その歩みを余すところなくお伝えしましょう。これから格闘技を見る方にもわかりやすく、彼の凄さと魅力を紐解いていきます。
マクレガーの戦績:通算成績と基本データ
まずは、コナー・マクレガーがこれまでに残してきた公式な戦績と、ファイターとしての基本的なプロフィールを確認していきましょう。彼のキャリアを数字で見ると、その爆発的な攻撃力と、いかに早い段階で試合を決めてきたかという特徴がよくわかります。
ファイターとしての基本プロフィール
コナー・マクレガーは1988年7月14日生まれ、アイルランドのダブリン出身です。身長175cm、リーチ(両腕を広げた長さ)は188cmと、身長に対して非常に長いリーチを持っているのが大きな特徴です。この長いリーチを生かした遠い間合いからの打撃は、対戦相手にとって脅威となり続けてきました。
通常時の体重は階級によって異なりますが、彼が主戦場としてきたのはフェザー級(-65.8kg)、ライト級(-70.3kg)、そしてウェルター級(-77.1kg)の3つの階級です。これほど幅広い階級でトップ選手と渡り合えるフィジカルの強さと適応能力も、彼の非凡な才能の一つと言えるでしょう。
所属ジムは「SBGアイルランド」で、名伯楽ジョン・カアナウの指導のもと、独自の格闘理論を磨いてきました。彼の異名である「ノトーリアス(悪名高い)」は、彼の大胆不敵な言動と、リング上での圧倒的な支配力を象徴しています。
MMA通算戦績の詳細
マクレガーの総合格闘技(MMA)における通算戦績は、28戦して22勝6敗です(2024年時点)。この数字の中で特筆すべきは、勝利した試合のほとんどが「KO(ノックアウト)」または「TKO(テクニカルノックアウト)」によるものであるという点です。
以下の表に、彼の戦績の内訳をまとめました。
| 勝敗 | 回数 | 内訳 |
|---|---|---|
| 勝利 | 22 | KO/TKO:19回 一本勝ち:1回 判定勝ち:2回 |
| 敗北 | 6 | 一本負け:4回 KO/TKO負け:2回 |
このデータからわかるように、勝利の約86%が打撃による決着です。これは軽量級の選手としては驚異的なKO率であり、彼の左のパンチがいかに破壊的であるかを証明しています。一方で、敗北の多くは「一本負け(サブミッション)」であり、寝技の展開で苦戦する傾向があることも読み取れます。
獲得した主要タイトル
マクレガーの名を歴史に刻んだ最大の功績は、世界最高峰の団体「UFC」において、史上初めて「同時2階級制覇」を成し遂げたことです。これは、フェザー級王者である状態で、一つ上の階級であるライト級の王座も獲得し、同時に2つのベルトを保持したことを意味します。
UFC以前には、ヨーロッパの団体「Cage Warriors」でもフェザー級とライト級の同時王者に輝いています。つまり、彼はキャリアの中で2度も「同時2階級制覇」を達成しているのです。この前例のない偉業が、彼を特別な存在へと押し上げました。
【獲得タイトル一覧】
・第2代UFC世界フェザー級王座
・第9代UFC世界ライト級王座
・第6代CWFCフェザー級王座
・第3代CWFCライト級王座
独自のファイトスタイル
マクレガーの戦い方は、サウスポー(左構え)から繰り出される正確無比な打撃が最大の特徴です。特に「セルティック・クロス」と呼ばれる左のストレートは、一撃で相手を失神させる威力を持っています。彼は単に力が強いだけでなく、相手の動きを予測し、カウンターを合わせる技術において天才的なセンスを持っています。
また、彼は伝統的なボクシングやキックボクシングの技術に加え、空手やテコンドーのような変則的な蹴り技も多用します。横を向いた広いスタンスから、回転蹴りや関節蹴りを放ち、相手を撹乱します。そして、相手が焦って飛び込んできたところに、必殺の左を合わせるのが彼の勝利の方程式です。
キャリア初期からUFCデビューまでの道のり

ここでは、マクレガーが世界的なスターになる前の、キャリア初期からUFCデビュー、そしてトップファイターへの階段を駆け上がる過程を見ていきます。当時の彼は、アイルランドの生活保護を受けながらトレーニングを続けるハングリーな若者でした。
アイルランド時代とCage Warriorsでの活躍
2008年にプロデビューを果たしたマクレガーは、当初は勝ったり負けたりを繰り返す時期もありました。しかし、名コーチであるジョン・カアナウと出会い、その才能を一気に開花させます。ヨーロッパの主要団体である「Cage Warriors(ケージ・ウォリアーズ)」に参戦すると、その打撃センスで連戦連勝を重ねました。
2012年にはフェザー級王座を獲得し、そのわずか半年後には1階級上のライト級王座も獲得。ヨーロッパの舞台で「同時2階級制覇」という離れ業をやってのけました。この圧倒的なパフォーマンスが、世界最大の団体であるUFCのダナ・ホワイト代表の目に留まり、契約を勝ち取ることになります。
衝撃のUFCデビュー戦
2013年4月、スウェーデンで開催された大会でマクレガーはUFCデビューを果たしました。対戦相手はマーカス・ブリメージという実力者でしたが、マクレガーは開始直後からプレッシャーをかけ続けました。独特の動きで相手を翻弄し、わずか1ラウンド1分7秒でTKO勝利を収めます。
この試合後、彼はマイクを持って「6万ドルのボーナスをくれ!」と叫びました。そのカリスマ性と実力に、観客も運営もすぐに魅了されました。このデビュー戦は、後に続く「マクレガー伝説」の序章に過ぎませんでした。彼の登場は、アイルランドに格闘技ブームを巻き起こすきっかけとなります。
フェザー級での快進撃
デビュー戦の勝利後も、マクレガーの勢いは止まりませんでした。後のフェザー級王者となるマックス・ホロウェイに怪我を抱えながら判定勝ちを収めると、続くディエゴ・ブランダオン戦では故郷ダブリンの大歓声を背に1ラウンドTKO勝利。さらにダスティン・ポイエーをも1ラウンドで沈めました。
彼は試合のたびに「俺が何ラウンドで倒すか予言する」と公言し、それを次々と実現させていきました。トラッシュトーク(挑発的な発言)で相手を精神的に追い詰め、試合では宣言通りに倒す。この有言実行のスタイルがファンの心を掴み、彼は異例のスピードでタイトルマッチへの挑戦権を手繰り寄せます。
伝説となった主要な試合とライバル対決
マクレガーのキャリアを語る上で外せないのが、歴史に残るビッグマッチの数々です。特にフェザー級での戴冠と、階級を超えたライバルたちとの死闘は、格闘技史におけるハイライトと言っても過言ではありません。
ジョゼ・アルドとの13秒決着
2015年12月、UFC 194で行われたフェザー級王座統一戦は、世界中が注目する一戦でした。対戦相手は、10年間無敗を誇り「絶対王者」として君臨していたジョゼ・アルドです。試合前、マクレガーは執拗なまでの挑発を行い、アルドの冷静さを奪いにかかりました。
試合開始のゴングが鳴った直後、歴史が動きます。アルドが踏み込んで打った右フックに対し、マクレガーは下がりながら左フックを一閃。これがカウンターとして完璧に顎を捉え、アルドは失神してダウンしました。試合時間はわずか13秒。UFCタイトルマッチ史上最短記録でのKO勝利となり、マクレガーはフェザー級の頂点に立ちました。
ネイト・ディアスとの因縁の連戦
フェザー級を制したマクレガーは、すぐに階級を上げてライト級王座への挑戦を表明しましたが、相手の負傷により急遽対戦相手がネイト・ディアスに変更となりました。しかも契約体重はライト級よりさらに重いウェルター級。2016年3月の初戦、マクレガーは序盤こそパンチを当てましたが、打たれ強いネイトにスタミナを削られ、2ラウンドでリアネイキッドチョーク(裸絞め)を極められ一本負けを喫しました。
この敗北で評価を落とすかと思われましたが、マクレガーは即座にリベンジマッチを要求します。同年8月に行われた再戦は、5ラウンドにわたる壮絶な殴り合いとなりました。互いにダウンを奪い合い、血まみれになりながら戦い抜いた末、判定2-0でマクレガーが勝利。この2試合はUFCのPPV(ペイ・パー・ビュー)販売記録を塗り替えるほどの大熱狂を生みました。
エディ・アルバレス戦での2階級制覇
ネイトへのリベンジを果たしたマクレガーは、2016年11月、満を持してライト級王者エディ・アルバレスに挑戦しました。ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンで行われたこの試合で、マクレガーはキャリア最高とも言えるパフォーマンスを見せます。
彼はアルバレスの攻撃をほとんど受けず、正確なカウンターで何度もダウンを奪いました。そして2ラウンド、流れるようなコンビネーション(4連打)で王者をマットに沈めました。これにより、彼はフェザー級とライト級のベルトを同時に肩にかけるという、UFC史上初の快挙を達成。まさに「神がかった」強さを見せつけた瞬間でした。
ハビブ・ヌルマゴメドフとの深い確執
2階級制覇後、しばらくMMAを離れていたマクレガーが復帰戦の相手に選んだのは、当時ライト級王者となっていたハビブ・ヌルマゴメドフでした。しかし、この両者の間にはスポーツの枠を超えた深い確執がありました。マクレガーがヌルマゴメドフの乗るバスを襲撃する事件を起こすなど、対立は極限までエスカレートしていました。
2018年10月の試合は、ヌルマゴメドフの圧倒的なレスリング力の前にマクレガーが防戦一方となり、4ラウンドにネッククランク(首をひねる技)で一本負けを喫しました。試合後には両陣営が入り乱れる大乱闘が発生し、後味の悪さが残る結末となりましたが、この試合はMMA史上最も注目されたイベントの一つとして記録されています。
ボクシングへの挑戦とメイウェザー戦
マクレガーの常識破りな行動力は、MMAの枠組みさえも超えていきました。現役のUFC王者でありながら、ボクシング界のレジェンド、フロイド・メイウェザー・ジュニアへの対戦を要求し、それを実現させてしまったのです。
「THE MONEY FIGHT」の実現
2017年8月、ラスベガスで行われたこの試合は「THE MONEY FIGHT(金の雨が降る戦い)」と呼ばれました。5階級制覇王者で50戦無敗を目指すメイウェザーと、MMAの頂点に立つマクレガー。ルールの異なる競技のトップ同士がボクシングルールで戦うという企画は、当初「実現不可能」と言われていました。
しかし、マクレガーの巧みなプロモーション能力と世間の期待が、このドリームマッチを実現させました。世界中のメディアがこの一戦を報じ、ファイトマネーとPPV収入を含めた興行規模は数億ドル(数百億円)にも達したと言われています。マクレガーはこの1試合で、生涯の収入を大きく変えるほどの富を手にしました。
試合展開と評価
専門家の多くは「マクレガーに勝ち目はない」「ボクシングを舐めている」と批判的でしたが、試合序盤、マクレガーは意外な善戦を見せます。変則的な構えとリーチを活かしてメイウェザーにパンチを当て、ポイントを取るラウンドもありました。
しかし、中盤以降はメイウェザーが修正能力を発揮。スタミナが切れてきたマクレガーに対し、的確なパンチをまとめていきました。結果は10ラウンドTKOでメイウェザーの勝利となりましたが、ボクシングデビュー戦で伝説の王者を相手に10ラウンドまで戦い抜いたマクレガーの根性と才能には、多くの称賛が送られました。
近年の苦戦と復帰への期待
メイウェザー戦で巨万の富を得たマクレガーですが、その後のMMAキャリアは順風満帆とはいきませんでした。リング外でのトラブルや怪我に悩まされ、かつてのような圧倒的な強さを見せる機会が減っていきます。
ドナルド・セラーニ戦での秒殺劇
ヌルマゴメドフ戦での敗北から1年3ヶ月後の2020年1月、マクレガーはウェルター級でドナルド・セラーニと対戦し、復帰を果たしました。この試合で彼は、開始早々に肩をぶつける攻撃(ショルダーアタック)で相手の鼻骨を骨折させ、ハイキックからのパンチ連打でわずか40秒でTKO勝利を収めました。
この勝利により、マクレガーはフェザー級、ライト級、ウェルター級の3階級すべてで「KO勝利」を挙げたUFC史上初のファイターとなりました。「キングの帰還」を印象づけた試合でしたが、これが現時点(2024年)での最後の勝利となっています。
ダスティン・ポイエーとの3部作と悪夢の骨折
2021年、マクレガーはかつて秒殺したダスティン・ポイエーとの再戦に臨みました(第2戦)。しかし、ポイエーはカーフキック(ふくらはぎへの蹴り)でマクレガーの足を破壊する作戦を実行。足が効いて動けなくなったマクレガーはパンチの連打を浴び、キャリア初のKO負けを喫しました。
そして同年7月に行われた決着戦(第3戦)。1ラウンド終盤、激しい打ち合いの中でマクレガーが後退した瞬間、左足のスネが完全に折れてしまうというショッキングなアクシデントが発生しました。ドクターストップによるTKO負けとなり、彼は担架で運ばれることになりました。この大怪我が、その後の長期欠場の直接的な原因となっています。
現在の状況と2025年への展望
骨折からのリハビリを経て、マクレガーは復帰に向けたトレーニングを再開しています。2023年には人気番組「TUF(The Ultimate Fighter)」のコーチ役として出演し、相手コーチのマイケル・チャンドラーとの対戦が決定していましたが、マクレガーの小指の怪我などにより試合は延期され、2024年中の実施は見送られました。
2025年の早い段階での復帰が噂されていますが、対戦相手や階級は流動的です。彼はビジネスでも大成功を収めており、映画『ロードハウス』への出演など俳優としての活動も始めています。「戦う必要がないほど金持ちになった彼に、以前のようなハングリーさは残っているのか?」という疑問の声もありますが、世界中のファンは「ノトーリアス」が再びオクタゴンに立つ姿を待ち望んでいます。
メモ:
マクレガー自身のウィスキーブランド「Proper No. Twelve」は大ヒットし、その後巨額で売却されました。実業家としての才能も抜群です。
まとめ:マクレガーの戦績から見る格闘技界への貢献

コナー・マクレガーの戦績は、単なる勝敗の記録以上に、格闘技界全体を大きく変えた歴史そのものです。フェザー級での13秒KO、同時2階級制覇、そしてボクシング界とのクロスオーバーマッチ。彼が動くところには常に莫大なお金と注目が集まり、MMAをマイナースポーツから世界的なエンターテインメントへと押し上げました。
戦績データを見れば、彼がいかに卓越したストライカーであるかがわかります。たとえ敗北が増えたとしても、彼がオクタゴンに入る瞬間の緊張感と興奮は、他のどのファイターとも比べ物になりません。復帰戦がいつになるにせよ、マクレガーの戦いはまだ終わっていないと信じたいものです。彼の次なる一手が、また新たな伝説を作ることを期待しましょう。



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