「水をたくさん飲むだけで痩せる」という話を聞いたことはありませんか?
ダイエットや減量の世界では、ウォーターローディングという言葉が注目されています。これは単に水分をとる健康法とは少し異なり、格闘家やボディビルダーが試合前の短期間で体重を落とすために用いる、少し特殊なテクニックです。
「なぜ水を飲むと体重が減るの?」
「自分もやってみたいけれど、危険はないの?」
そんな疑問を持つ方のために、ウォーターローディングの仕組みから、具体的なやり方、そして知っておくべきリスクまでをわかりやすく解説します。正しい知識を持って、自分の目的に合った方法を選びましょう。
ウォーターローディングと減量の関係とは?基礎知識を知ろう
まずは、ウォーターローディングがどのような仕組みで体重減少につながるのか、その基本原理を理解しましょう。単に水をガブ飲みすれば痩せるわけではなく、身体の生理的な反応を利用した計算された方法です。
ウォーターローディングの定義と目的
ウォーターローディング(Water Loading)とは、一時的に大量の水分を摂取して身体を「排出モード」にし、その後水分摂取を断つことで、体内から急速に水分を抜く減量方法です。
主に、体重別の階級がある格闘技(ボクシング、MMAなど)や、筋肉のカットを鮮明に見せたいボディビル、フィジークの選手が行います。
目的は「脂肪を燃やすこと」ではなく、「体内の水分量を一時的に減らして、体重計の数値を落とすこと」にあります。そのため、長期間のダイエットというよりは、計量日やコンテスト当日に向けた「最終調整」としての意味合いが強いテクニックです。
身体が水分を排出する「水抜き」の仕組み
なぜ、水を飲むと水が抜けるのでしょうか?ここにはホルモンの働きが関係しています。
人間の身体には、体内の水分バランスを一定に保とうとする機能(恒常性)があります。普段、水分が足りなくなると「抗利尿ホルモン(ADH)」などが働き、尿を出さないように調整します。
逆に、数日間にわたって大量の水を飲み続けると、身体は「水が余っている」と判断し、ホルモンの分泌を抑えてどんどん尿として排出しようとします。
この「排出モード」に入った状態で、急に水を飲むのをやめるとどうなるでしょう?
身体はすぐには排出モードを止められないため、入ってくる水がないのに尿を出し続けます。その結果、体内の水分が絞り出され、急速に体重が落ちるのです。
一般的な「水ダイエット」との違い
よく雑誌やテレビで紹介される「水ダイエット」と、競技者が行う「ウォーターローディング」は全くの別物です。
一般的な水ダイエットは、1日1.5〜2リットル程度の水をこまめに飲み、代謝を良くしたり食べ過ぎを防いだりする健康法です。これは安全で、誰にでもおすすめできます。
一方、今回解説しているウォーターローディングは、1日に6〜8リットルもの水を飲み、最後に極端に水を断つという、身体に大きな負荷をかける方法です。
「痩せたいから」といって、安易に競技者向けの方法を真似するのは非常に危険ですので、区別して考える必要があります。
正しいウォーターローディングのやり方とスケジュール

ここでは、実際にアスリートが行っている標準的なウォーターローディングの流れを紹介します。身体の反応を利用するため、スケジュール管理が非常に重要になります。
準備期間:水分摂取量を増やすフェーズ
目標とする日(計量日や大会日)の約1週間前からスタートします。
最初の数日間は、普段よりもはるかに多い量の水を飲みます。目安としては、1日あたり6〜8リットル、あるいは体重1kgあたり100ml程度とも言われます。
常に水を持ち歩き、こまめに飲み続ける必要があります。この段階ではトイレの回数が劇的に増えますが、それは身体が「排出モード」に切り替わっている証拠です。
この期間は、食事もしっかり摂りますが、少しずつ塩分のコントロールを意識し始めます。
スケジュールの例(計量が日曜日の場合)
月曜~木曜:毎日6〜8リットルの水を摂取
金曜:水分量を4リットル程度に減らす
土曜:水分量をさらに制限し、夕方以降はカット
日曜:計量終了まで水分断ち
調整期間:塩分(ナトリウム)のコントロール
水だけでなく「塩分」の調整も成功の鍵を握ります。
ナトリウムには水分を体内に溜め込む性質があるため、ローディング前半は塩分を通常通り摂取(あるいは少し多めに摂取)して身体の機能を維持します。
そして、水分を減らし始める2〜3日前から、塩分を極端にカット(塩抜き)します。
体内に塩分がなくなると、身体は水分を保持できなくなり、脱水がさらに加速します。この「水抜き」と「塩抜き」を組み合わせることで、皮膚が薄くなったようなドライな質感や、大幅な体重減少を実現します。
実行期間:水分摂取を制限・カットする段階
計量の前日や前々日になると、これまで大量に飲んでいた水を段階的に減らしていきます。
例えば、8リットル飲んでいたのを4リットルにし、翌日は2リットル、そして前日の夜からは完全にストップする、といった具合です。
身体はまだ「大量に水を排出するスイッチ」が入ったままなので、水が入ってこなくても尿が出続けます。
この時期は、口の渇きとの戦いになります。氷を口に含んで渇きを紛らわせたり、サウナやお風呂を利用して最後の水分を汗として絞り出したりする選手もいます。
リカバリー:減量後の正しい水分の戻し方
計量やコンテストが終わった後、すぐに普通の水をガブ飲みするのは避けましょう。
脱水状態の身体は吸収率が変わっており、急に真水を大量に入れると体調を崩したり、むくみがひどくなったりします。
まずは、経口補水液やスポーツドリンクなど、電解質(ナトリウムやカリウム)を含んだ水分を少しずつ摂取します。
同時に、エネルギー源となる炭水化物(お粥やバナナなど)を摂ることで、筋肉に水分を引き込み、身体のコンディションを回復させていきます。
失敗しないための注意点と潜んでいる危険なリスク
ウォーターローディングは効果が高い反面、身体への負担が非常に大きい行為です。最悪の場合、命に関わることもあるため、リスクを正しく理解しておく必要があります。
水中毒(低ナトリウム血症)の恐怖
最も警戒すべきなのが「水中毒」です。
短時間に大量の水を飲むと、血液中のナトリウム濃度が急激に薄まってしまいます。これを低ナトリウム血症と呼びます。
初期症状としては、頭痛、吐き気、めまい、疲労感などが現れます。重症化すると、意識障害やけいれんを起こし、死に至るケースも報告されています。
「水ならいくら飲んでも大丈夫」というのは間違いです。一度に大量に飲むのではなく、時間をかけて少しずつ飲むこと、そしてローディング期間中(塩抜き前)は適度な塩分摂取を忘れないことが重要です。
・激しい頭痛が止まらない
・吐き気や嘔吐感がある
・手足がむくんで感覚がおかしい
・ろれつが回らない
脱水症状と熱中症への警戒
水を断つフェーズでは、意図的に脱水症状を作り出しています。
この状態は、熱中症になりやすい非常に危険なコンディションです。体温調節機能が低下しているため、暑い場所にいるだけで倒れてしまう可能性があります。
また、血液がドロドロになりやすいため、血栓などのリスクも高まります。
一般のダイエッターが、専門家の指導なしに完全な「水断ち」を行うのは絶対に避けてください。めまいやふらつきを感じたら、すぐに中止して水分を補給しましょう。
腎臓への負担と内臓機能の低下
腎臓は、血液をろ過して尿を作る臓器です。
大量の水を処理させられた後に、急激な脱水を強いられると、腎臓には強烈なストレスがかかります。
繰り返しの急激な減量は、将来的に腎機能障害を引き起こすリスクがあるとも言われています。
また、電解質バランスが崩れることで、心臓への負担(不整脈など)が生じる可能性もあります。健康診断で腎臓の数値に不安がある人は、絶対に行わないでください。
リバウンドやコンディション悪化の可能性
ウォーターローディングで減った体重は、あくまで「水分」です。脂肪が減ったわけではありません。
そのため、普通の食事と水分摂取に戻せば、体重はほぼ元通りになります。これを「リバウンド」と呼ぶのも違うほど、当たり前の生理現象です。
むしろ、身体が飢餓状態や脱水状態を記憶し、水分を溜め込みやすい体質に変化してしまうこともあります。
「痩せて見える期間は一瞬だけ」と割り切り、長期的なダイエット効果は期待しないようにしましょう。
一般のダイエッターも活用できる水分補給のコツ
ここまで解説した通り、本格的なウォーターローディングはプロ向けの危険な調整法です。しかし、「水の飲み方」を工夫することで、健康的で美しい体を作ることは可能です。
極端なウォーターローディングは推奨されない理由
結婚式や写真撮影など、どうしても「明日だけ細くなりたい」という日があるかもしれません。
しかし、素人が見よう見まねで塩抜きや水抜きを行うと、顔色が悪くなったり、肌が乾燥してカサカサになったり、フラフラで表情が作れなくなったりと、美容面でのデメリットが大きくなります。
健康的に美しく見えるためには、極端な脱水よりも、適切な水分補給で血流を良くする方が効果的です。
痩せやすい体を作る「正しい水の飲み方」
日常のダイエットに取り入れたいのは、代謝をサポートするための水分補給です。
1日あたり1.5〜2リットルを目安に、コップ1杯程度の水をこまめに飲みましょう。
タイミングとしては、「起床時」「食事の前」「入浴の前後」「就寝前」などがおすすめです。
特に食事の前に水を飲むと、満腹感を得やすくなり、食べ過ぎを防ぐ効果も期待できます。一度にガブ飲みするのではなく、「身体を常に潤す」イメージで飲むのがポイントです。
水の種類(軟水・硬水)と温度の選び方
飲む水の種類や温度にもこだわってみましょう。
軟水:口当たりがまろやかで飲みやすい。日本の水道水や多くの国産ミネラルウォーターは軟水です。胃腸への負担が少なく、日常的な水分補給に向いています。
硬水:マグネシウムやカルシウムなどのミネラルが豊富。便秘気味の人には、腸を刺激して排便を促す効果が期待できますが、飲みすぎるとお腹が緩くなることもあります。
温度は、内臓を冷やさない「常温」か「白湯」がベストです。冷たい水は代謝を下げてしまう可能性があるため、ダイエット中は控えめにしましょう。
ウォーターローディングと減量のまとめ:リスクを理解して安全に

ウォーターローディングについて、その仕組みから実践方法、リスクまでを解説してきました。
最後に、記事のポイントを振り返ります。
- 仕組み:大量の水分摂取でホルモンバランスを変化させ、その後水を断つことで強制的に水分を排出させる方法。
- 目的:「脂肪燃焼」ではなく、試合や計量に向けた一時的な「体重数値の減少」が目的。
- 方法:1週間前から大量に飲み、徐々に塩分を調整し、直前に水をカットするスケジュール管理が必要。
- リスク:水中毒、脱水症状、腎臓への負担など、命に関わる危険性があるため専門知識が不可欠。
- 一般の方へ:極端な水抜きは避け、1日1.5〜2リットルの適切な水分補給で代謝を高める「水ダイエット」がおすすめ。
ウォーターローディングは、あくまで「ここ一番」の勝負のためにアスリートが行う高度なテクニックです。
もしあなたが日常的なダイエットや健康維持を目指しているなら、無理な水抜きや大量摂取は避け、適度でこまめな水分補給を心がけてください。
正しい知識で水と付き合い、健康的で理想的な身体を目指しましょう。



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