「推しの選手はどの階級で戦っているの?」
「フェザー級とバンタム級、どっちが重いんだっけ?」
「RIZINとUFCで微妙に体重が違うのはなぜ?」
総合格闘技(MMA)を観戦していると、必ず耳にするのが「階級」という言葉です。ボクシングと同じように、格闘技では体重差が勝敗に大きく影響するため、公平を期して細かく階級が分けられています。しかし、団体によって呼び方が違ったり、ポンド(lb)とキログラム(kg)が混在していたりと、初心者の方には少し分かりにくい部分も多いのが現実です。
そこで本記事では、MMAの階級を「やさしく」「わかりやすく」解説します。世界標準であるユニファイド・ルールから、日本が誇るRIZIN、そして独自の水抜き禁止ルールを持つONE Championshipまで、各団体の違いもしっかり網羅しました。この記事を読めば、試合前の計量ニュースも、実況解説の専門用語も、より深く楽しめるようになるはずです。
MMA階級一覧と統一ルール(ユニファイド・ルール)の基本
まずは、世界中で最も標準的に採用されているルールセット、「ユニファイド・ルール(Unified Rules of Mixed Martial Arts)」における階級を見ていきましょう。UFCをはじめとする多くの国際的な団体がこの基準を採用しています。
ユニファイド・ルールとは何か?
総合格闘技が生まれた当初は、ルールも曖昧で、体重差のある「無差別級」の試合も珍しくありませんでした。しかし、スポーツとしての安全性を高め、競技として確立するために、北米のアスレチック・コミッション(競技委員会)が中心となって統一ルールが制定されました。これがユニファイド・ルールです。
現在、世界のMMAシーンはこのルールが基準となっており、体重区分だけでなく、反則行為や判定基準なども統一されています。選手が国や団体を跨いで活躍できるのは、この共通言語があるからこそなのです。
ポンド(lb)とキログラム(kg)の換算について
アメリカ発祥のスポーツであるため、MMAの階級は基本的に「ポンド(lb)」で区切られています。1ポンドは約0.453592キログラムです。日本のファンにとっては「キログラム」の方が馴染み深いため、ここではポンドとキログラムの対応表を作成しました。
以下の表は、主要な階級とそのリミット体重をまとめたものです。各階級の間隔は、軽量級では約4.5kg、重量級にいくにつれて幅が広くなっているのが分かります。
| 階級名(日本語) | 階級名(英語) | リミット(lb) | リミット(kg) |
|---|---|---|---|
| ストロー級 | Strawweight | 115 lb | -52.2 kg |
| フライ級 | Flyweight | 125 lb | -56.7 kg |
| バンタム級 | Bantamweight | 135 lb | -61.2 kg |
| フェザー級 | Featherweight | 145 lb | -65.8 kg |
| ライト級 | Lightweight | 155 lb | -70.3 kg |
| ウェルター級 | Welterweight | 170 lb | -77.1 kg |
| ミドル級 | Middleweight | 185 lb | -83.9 kg |
| ライトヘビー級 | Light Heavyweight | 205 lb | -93.0 kg |
| ヘビー級 | Heavyweight | 265 lb | -120.2 kg |
これらの数字は「上限体重」を表しています。例えばバンタム級の選手であれば、計量の瞬間に61.2kg以下であればパスとなります。タイトルマッチ以外の試合では、プラス1ポンド(約450g)までの超過が許容されることが一般的ですが、王座戦ではこのリミットを厳密に守らなければなりません。
なぜ細かく階級が分かれているのか
格闘技において「体重は正義」と言われることがあります。体重が重いだけで、パンチの威力、組み付いた時の圧力、そして打たれ強さが飛躍的に向上するからです。技術が同じレベルであれば、体重が重い方が圧倒的に有利になります。
特に軽量級では、わずか1kgの違いが勝敗を分けることもあります。選手の安全を守り、技術と体力の純粋な勝負を実現するために、このように細かく階級が設定されているのです。かつては「スーパーライバル同士が見たい」という理由で体重差のあるマッチメイクが組まれることもありましたが、現代MMAでは競技性が重視され、適正階級での戦いが基本となっています。
主要団体の階級別リミット詳細:UFC・RIZIN・ONE

世界基準のユニファイド・ルールについて理解したところで、次はファンが実際に観戦する機会の多い3大メジャー団体の違いについて解説します。実は「バンタム級」と言っても、団体によって体重が微妙に違ったり、全く異なる基準を採用していたりします。
世界最高峰・UFCの階級設定
アメリカを拠点とする世界最大の団体UFC(Ultimate Fighting Championship)は、前述のユニファイド・ルールを最も厳格に運用しています。男子はフライ級からヘビー級までの8階級、女子はストロー級からバンタム級(場合によってはフェザー級)までの階級で王座が争われています。
UFCの特徴は、世界中からトップファイターが集まるため、どの階級も層が非常に厚いことです。特にライト級やウェルター級は競技人口が多く、ランキングに入るだけでも至難の業と言われています。計量に関しても非常にシビアで、わずか数百グラムの超過でも多額の罰金や、最悪の場合は試合中止、タイトル剥奪といった厳しい処分が下されます。
日本の熱狂・RIZINの独自階級と特徴
日本のRIZIN(ライジン)は、基本的にユニファイド・ルールに近い体重設定を採用していますが、いくつかの点で独自性を持っています。まず、基準が「ポンド」ではなく「キログラム」で設定されていることが多いです。そのため、ユニファイドでは「61.2kg」という端数になるバンタム級が、RIZINではきっちり「61.0kg」と設定されることがあります(契約によって異なります)。
また、女子の階級において「スーパーアトム級(-49.0kg)」という独自の階級が設けられているのが大きな特徴です。これは、欧米の選手に比べて小柄な日本人女性ファイターが最も輝ける体重域として設定されました。この階級は世界的に見てもRIZINのレベルが非常に高く、世界中から強豪が集まる激戦区となっています。
水抜き禁止・ONE Championshipの特殊な階級
シンガポールを拠点とするONE Championshipは、他の団体とは全く異なる革新的な計量システムを採用しています。それは「水抜き減量の禁止」です。選手の健康を守るため、過度な脱水を防ぐ尿比重検査(ハイドレーションテスト)が義務付けられています。
そのため、ONEの階級はユニファイド・ルールよりも「実質1階級上」の体重設定になっています。名称は同じでも、リミット体重が重いのです。ここが非常に混乱しやすいポイントです。
ONEの階級設定(カッコ内はユニファイドとの比較)
・ストロー級:-56.7kg(他団体のフライ級相当)
・フライ級:-61.2kg(他団体のバンタム級相当)
・バンタム級:-65.8kg(他団体のフェザー級相当)
・フェザー級:-70.3kg(他団体のライト級相当)
・ライト級:-77.1kg(他団体のウェルター級相当)
つまり、日本のRIZINバンタム級(61kg)で戦っている選手がONEに移籍する場合、ONEでは「フライ級(61.2kg)」の選手として扱われることになります。普段の通常体重に近い状態で戦うことができるため、選手は常にベストコンディションで試合に臨めると言われています。
その他の団体(Bellator、PFLなど)の傾向
アメリカのBellator(ベラトール)やPFL(プロフェッショナル・ファイターズ・リーグ)といった団体は、基本的にUFCと同じユニファイド・ルールを採用しています。これにより、団体間の対抗戦や選手の移籍が比較的スムーズに行われます。
ただし、団体によっては「スーパーライト級(165lb)」など、ユニファイド・ルールには存在するもののUFCでは採用されていない階級を試験的に導入する動きも見られます。これは、激戦区であるライト級とウェルター級の間を埋め、より多くの選手にチャンスを与えるための試みです。
軽量級(フライ級〜フェザー級)の特徴と見どころ
ここからは、各階級の具体的な特徴と、観戦する際の見どころを紹介します。まずは、日本人が最も活躍している軽量級の3階級です。スピード感溢れる攻防は、瞬き厳禁の面白さがあります。
フライ級(-56.7kg):神速のスピードバトル
男子の最軽量級であるフライ級は、とにかくスピードが魅力です。パンチの回転数、タックルの速さ、寝技の展開スピード、すべてが目にも止まらぬ速さで進行します。スタミナも無尽蔵にある選手が多く、5ラウンド(25分間)動き続けてもペースが落ちない試合が頻発します。
かつては「KOが少ない」と言われることもありましたが、近年は技術の進化により、軽量級とは思えない破壊力を持つストライカーが増えています。小柄ながらもしっかりと筋肉をつけたフィジカルモンスターたちが、高度な技術戦を繰り広げる、まさに「現代MMAの縮図」とも言える階級です。
バンタム級(-61.2kg):世界で最も層が厚い激戦区
現在、日本国内で最も盛り上がっているのがこのバンタム級です。「黄金のバンタム」とも呼ばれ、スター選手がひしめき合っています。日本人の平均的な体格に最も適しており、世界と互角に渡り合える階級でもあります。
この階級の特徴は、スピードとパワーのバランスが絶妙であることです。フライ級並みのスピードを持ちながら、一撃で相手を失神させるパワーも兼ね備えています。打撃が得意なストライカー、寝技が得意なグラップラー、どちらのスタイルもトップレベルで共存しており、相性によるスリリングな展開が多く見られます。
フェザー級(-65.8kg):スピードとパワーの完璧な融合
フェザー級になると、選手の体格は一回り大きくなり、背中や肩の筋肉の盛り上がりが目立つようになります。この階級は、軽量級のスピードを保ちつつ、中量級に近い破壊力を手に入れた「完成された肉体」同士のぶつかり合いが見られます。
世界的に見てもスーパースターが生まれやすい階級であり、カリスマ性のある王者が長期政権を築くことも少なくありません。日本人が世界を目指す上で、体格的な壁を感じ始めるのがこの階級あたりからと言われていますが、近年ではフィジカルトレーニングの進化により、欧米の選手に力負けしない日本人ファイターも登場しています。
中量級(ライト級〜ミドル級)の特徴と見どころ
続いては中量級です。ここからは世界的な競技人口が爆発的に増え、まさに「人類最激戦区」と呼ばれる領域に入ります。
ライト級(-70.3kg):人類最激戦区と呼ばれる理由
世界の成人男性の平均体重に近く、最も競技人口が多いのがライト級です。UFCにおいて「最も王者になるのが難しい階級」と言えば、間違いなくここでしょう。競争が激しいため、技術、体力、精神力、すべてのパラメーターがマックスでなければ生き残れません。
この階級では、レスリングやサンボなどの組み技をベースにした強力な選手が多く、フィジカルの強さが際立ちます。試合展開も非常にハードで、一瞬のミスが命取りになる緊迫感が常に漂っています。世界中の猛者が集まるこの階級でランキング入りすることは、それだけで「超人」の証明となるのです。
ウェルター級(-77.1kg):フィジカルモンスターの競演
ウェルター級になると、選手の体は明らかに「大きい」と感じるようになります。減量前は90kg近くある選手が、77.1kgまで落として戦うため、試合当日のリカバリー(体重戻し)を含めると、リング上では凄まじい迫力になります。
この階級は、レスリング大国であるアメリカの選手層が非常に厚いのが特徴です。強靭なタックルで相手をなぎ倒し、上から押さえ込んでパウンド(寝技状態でのパンチ)を叩き込む、パワフルなスタイルが主流です。パワーがありながらも動きは俊敏で、最もアスリート能力が高い階級の一つと言われています。
ミドル級(-83.9kg):一撃必倒の打撃と技術戦
ミドル級からは、明確に「重量級」の空気が漂い始めます。打撃の音質が変わり、ガードの上からでも効かされるような重いパンチやキックが飛び交います。
面白いのは、パワーだけでなく、非常に繊細な距離感の駆け引きが行われる点です。一発の威力が致命傷になるため、不用意に飛び込むことができません。そのため、互いに間合いを図りながら、一瞬の隙を突いて必殺の一撃を放つ、緊張感あふれるストライキングバトルが多く見られます。KO決着率も高く、派手な試合を好むファンにはおすすめの階級です。
重量級(ライトヘビー級〜ヘビー級)の特徴と見どころ
最後は、規格外の男たちが集う重量級です。細かい技術云々を超越した、圧倒的な「力」のドラマがここにあります。
ライトヘビー級(-93.0kg):規格外のパワーと機動力
「ライト」と付いていますが、日本人からすれば全くライトではありません。ほぼ100kgに近い体重で戦う彼らは、ヘビー級並みのパワーを持ちながら、動ける体を持っています。
この階級の魅力は、巨体同士が激しく動き回るダイナミックさです。派手な投げ技や、豪快なハイキックが決まることもあります。一発逆転の要素が強く、試合終了のゴングが鳴るまで何が起こるか分からないスリルがあります。
ヘビー級(-120.2kg):地上最強を決める戦い
格闘技の華、それがヘビー級です。上限は120.2kgですが、下限の93kgから120kgまで、体重差があっても同じ土俵で戦います。この階級のチャンピオンは、文字通り「地上最強の男(Baddest Man on the Planet)」の称号を得ることになります。
ヘビー級の試合に判定決着は似合いません。かすったようなパンチでも相手が吹っ飛ぶ、理不尽なまでの破壊力が全てを支配します。技術も重要ですが、それ以上に生まれ持ったフレームの大きさや、動物的な強さが物を言う世界。観客は、いつ誰が倒れるか分からない恐怖と興奮を味わうことができます。
キャッチウェイト(契約体重)と無差別級のロマン
正規の階級以外に、特別な条件下で行われる試合もあります。それが「キャッチウェイト」や「無差別級」です。例えば、準備期間が短い緊急オファーの際などに、「72kg契約」といった中間の体重で合意して試合が行われます。
また、日本では大晦日などで「無差別級」の試合が組まれることがあります。体重差50kg以上の戦いなど、漫画のようなシチュエーションが見られるのもMMAの醍醐味です。「小よく大を制す」が実現するのか、それとも「大きさこそ強さ」が証明されるのか、ロマン溢れる戦いです。
試合を決める「水抜き」と減量の過酷な現実
MMAの階級を語る上で避けて通れないのが「減量」の話です。なぜ選手たちは、あそこまで過酷な減量をして、下の階級で戦おうとするのでしょうか。
通常体重と試合体重のギャップ
多くのファイターは、試合の時だけリミット体重まで落とし、普段はそれよりも5kg〜15kgほど重い体重で生活しています。これを「通常体重(ナチュラルウェイト)」と呼びます。計量は試合の前日に行われるため、計量をパスした直後から水分と食事を摂り、試合当日までに体重を急激に戻します。
例えば、ライト級(70.3kg)のリミットで計量した選手が、翌日の試合時には80kg近くまで戻っていることは珍しくありません。相手よりも少しでも重く、大きな体で戦うことで有利に立とうとする戦略です。
水抜き(リカバリー)の仕組みとリスク
脂肪を落とすダイエットとは異なり、格闘家の減量の最終段階は「体内の水分を抜く」作業です。これが「水抜き」と呼ばれます。半身浴やサウナスーツでの運動で、数キロ分の水分を短時間で排出します。
メモ:水抜きの危険性
人間の体の60%は水分です。極度の脱水状態は、腎不全や熱中症、最悪の場合は命に関わるリスクがあります。また、脳の水分(脳脊髄液)も減少するため、打撃を受けた際のダメージが大きくなりやすいとも言われています。
計量後に水分と炭水化物を摂取して体を膨らませるのが「リカバリー」です。このリカバリーの良し悪しが、当日のコンディションとパフォーマンスに直結します。
計量失敗(体重超過)が起きた場合のペナルティ
厳しい減量に失敗し、指定された時間に体重を落としきれなかった場合、それは「計量失敗(体重超過)」となります。ペナルティは団体によって異なりますが、一般的には以下のような処分が下されます。
- ファイトマネーの没収(20%〜50%が対戦相手に渡る)
- 勝っても公式記録がつかない(ノーコンテスト扱い)
- タイトルマッチの場合は、王座剥奪や挑戦権の喪失
- イエローカード(減点)からの試合スタート
対戦相手が試合を拒否すれば試合そのものが中止になりますが、多くの場合はキャッチウェイトとして試合が実施されます。しかし、体重超過をした選手が勝っても称賛されることはなく、プロとしての信頼を大きく損なうことになります。
MMA階級一覧を理解して観戦をより楽しもう

今回はMMAの階級について、基本的な一覧から団体ごとの違い、そして減量の裏側まで解説しました。
階級を知ることは、その試合の「前提条件」を知ることです。
「この選手は階級を上げたばかりだからパワー負けするかも?」
「減量がキツそうだったから、後半スタミナが切れるかも?」
「RIZINからUFCに行ったから、実質1階級下で戦うことになるのか!」
こうした視点を持つだけで、ただの殴り合いに見えていた試合が、深い戦略とドラマに満ちたストーリーに変わります。お気に入りの選手がどの階級で、どんなライバルたちと戦っているのか、ぜひ注目してみてください。格闘技観戦の面白さが、今の何倍にも膨れ上がるはずです。



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