世界最高峰の総合格闘技団体UFC(Ultimate Fighting Championship)。その試合を見る際、「フライ級」や「ヘビー級」といった階級の名前をよく耳にしますが、具体的に何キロなのか、なぜこれほど細かく分かれているのか疑問に思うことはないでしょうか。実は、UFCの階級体重は選手の安全と公平性を保つための厳格なルールの上に成り立っています。
この記事では、日本人には少し馴染みの薄い「ポンド」表記の解説から、各階級のキログラム換算、そして過酷な減量事情まで、UFC観戦が10倍楽しくなる知識を網羅しました。
UFC階級体重の一覧:ポンドとキログラムの換算表

UFCでは、最も軽いストロー級から最も重いヘビー級まで、男子8階級、女子4階級が設けられています。まずは、それぞれの階級が何キログラムに相当するのか、一覧表で確認していきましょう。
男子全8階級と女子全4階級の体重リミット
UFCはアメリカの団体であるため、体重の単位には「ポンド(lb)」が使用されます。1ポンドは約0.453592kgですが、日本のファンやメディアでは覚えやすいように小数点以下を調整したキログラム表記が一般的です。
| 性別 | 階級名 | リミット(ポンド) | リミット(キログラム) |
|---|---|---|---|
| 女子 | ストロー級 | 115 lb | 約 52.2 kg |
| 男女 | フライ級 | 125 lb | 約 56.7 kg |
| 男女 | バンタム級 | 135 lb | 約 61.2 kg |
| 男女 | フェザー級 | 145 lb | 約 65.8 kg |
| 男子 | ライト級 | 155 lb | 約 70.3 kg |
| 男子 | ウェルター級 | 170 lb | 約 77.1 kg |
| 男子 | ミドル級 | 185 lb | 約 83.9 kg |
| 男子 | ライトヘビー級 | 205 lb | 約 93.0 kg |
| 男子 | ヘビー級 | 265 lb | 約 120.2 kg |
このように、軽量級では約4〜5kg(10ポンド)刻みですが、重量級になるにつれて刻む幅が大きくなっています。特にライトヘビー級からヘビー級の間には約27kgもの差があり、ヘビー級がいかに特異な階級であるかがわかります。なお、男子ストロー級はUFCには存在せず、女子のみの階級となっています。
なぜ「ポンド」表記が使われるのか
日本で生活していると「キログラム」が当たり前ですが、ボクシングやレスリングの歴史が深いアメリカでは、体重管理において「ポンド」が標準的な単位として使われてきました。UFCもその流れを汲んでおり、すべての公式記録やルールブックはポンドで記載されています。
このポンド表記は、単なる単位の違い以上の意味を持ちます。例えば、多くの日本人ファイターが「海外では一階級下げるべきか」と悩む背景には、このポンド換算による微妙な体重設定のズレや、欧米選手の骨格の大きさ(=水抜きできる水分の多さ)が関係しています。「135ポンド」や「155ポンド」といったキリの良い数字は、現地のファイターにとって目指すべき明確なマイルストーンなのです。
階級の境界線が持つ意味
各階級のリミットは、単に選手を分けるための線引きではありません。それは、その階級で戦うための「適正体格」を定義するものでもあります。例えば、ライト級(70.3kg)のリミットは、一般的な成人男性の平均体重に近い数値ですが、実際にこの階級で戦うトップ選手たちの通常体重(試合がない時期の体重)は、80kgから85kg近くあることも珍しくありません。
つまり、リミット体重とは「試合前日に一時的に到達する数値」であり、実際の試合当日はそこから数キロ戻った状態で戦うことになります。この「リカバリー(体重の戻し)」の幅も含めて、どの階級を選択するかが選手のキャリアを左右する重要な戦略となっています。自分の骨格に対して軽すぎる階級を選べば減量が苦しくなりスタミナが切れますし、重すぎる階級を選べば相手のパワーに圧倒されてしまいます。
各階級の特徴と見どころ:スピードからパワーまで

体重が違えば、戦い方も大きく変わります。軽量級ならではの目にも止まらぬスピード勝負から、重量級の一撃必殺の迫力まで、階級ごとの「色」を知ることで観戦の解像度が上がります。
軽量級(フライ・バンタム・フェザー)の魅力
フライ級(約56.7kg)からフェザー級(約65.8kg)までの軽量級は、とにかく「スピード」と「運動量」が魅力です。人間が動ける限界の速さでパンチやキックが交錯し、5分間のラウンドを通じて動きが止まることがほとんどありません。また、技術レベルが非常に高いのも特徴で、複雑な寝技の攻防や、アクロバティックな回転技などが頻繁に見られます。
特に近年、この軽量級エリアは「技術の実験場」とも呼ばれています。カーフキック(ふくらはぎへの蹴り)やスイッチ(構えの左右変更)を多用する戦術など、現代MMA(総合格闘技)の最先端技術は、多くの場合この軽量級から生まれて上の階級へと波及していきます。一瞬のミスも許されない緻密なチェスのような攻防を楽しみたいなら、このクラスがおすすめです。
中量級(ライト・ウェルター・ミドル)の激戦区事情
ライト級(約70.3kg)からミドル級(約83.9kg)は、世界中の成人男性の平均的な体格に最も近いため、競技人口が最も多い「激戦区」です。特にライト級は「神の階級」と呼ばれるほど層が厚く、ランキングに入ることさえ至難の業とされています。
この階級の選手たちは、スピードとパワーのバランスが最も優れています。軽量級のような速さを持ちながら、一発で相手を失神させるKOパワーも兼ね備えているため、試合展開が非常にスリリングです。スタミナ、フィジカル、テクニックの全てにおいて満点の能力を持っていなければ王者にはなれないため、総合的な完成度が最も高いファイターたちが集まっています。
重量級(ライトヘビー・ヘビー)の圧倒的破壊力
ライトヘビー級(約93.0kg)とヘビー級(約120.2kg)は、まさに「怪獣たちの戦い」です。この階級の最大の特徴は、何と言っても「一発の重さ」です。たとえ試合内容で圧倒的に負けていても、たった一発のパンチが当たれば大逆転KO勝ちが起こり得ます。
ヘビー級特有の緊張感
ヘビー級の試合では、ジャブ一発でさえ相手をグラつかせる威力があります。「触れれば倒れる」という極限の緊張感があるため、観客は常に瞬き厳禁の状態になります。技術云々を超越した、生物としての強さがぶつかり合う迫力は、他のスポーツでは味わえない体験です。
女子部門の進化とテクニック
女子格闘技の歴史は男子に比べて浅いものの、近年の進化スピードは目覚ましいものがあります。ストロー級からフェザー級までの女子部門では、男子以上に柔軟性を活かした関節技や、粘り強いスタミナ勝負が見どころです。
以前は柔道やボクシングなど、特定のバックボーンに頼る選手が多かったのですが、現在は幼少期からMMAを学んでいる「純正MMAファイター」が増えてきました。男子に比べてKO決着率はやや低い傾向にありますが、その分、試合終了のゴングが鳴るまで攻め続ける激しい乱打戦や、高度なポジショニング争いが多く、技術的な見応えは十分にあります。
計量(ウェイトイン)の過酷な現実とルール

試合の前日に行われる「計量(ウェイトイン)」は、ファイターにとって最初の戦いです。ここで体重を作れなければ、試合が中止になることもあります。ここでは、一般の人には想像しがたい減量の裏側とルールについて解説します。
タイトルマッチと通常試合の体重制限の違い
実は、UFCの計量ルールには「タイトルマッチ」と「ノンタイトル戦(ワンマッチ)」で大きな違いがあります。これを理解していないと、「なぜ少しオーバーしているのにパスしたのか?」と混乱してしまうことがあります。
しかし、タイトルマッチではこの1ポンドルールは適用されません。過去には、チャンピオンがわずか0.5ポンド(約200g)超過したために王座を剥奪されるという事件も起きています。それほどまでに、UFCのタイトル戦における数字は厳格なのです。
水抜きなどの過酷な減量方法とは
多くのUFCファイターは、試合の数週間前から食事制限で脂肪を落とし、最後の数日間で「水抜き」と呼ばれる作業を行います。これは、体内の水分を極限まで排出して一時的に体重を減らす方法です。
具体的には、大量の水を飲んで「ウォーターローディング」を行った後に水分摂取を絶ったり、サウナやお風呂で大量の汗をかいたりして、数キロから時には10キロ近い水分を体から絞り出します。計量台に乗る時の選手たちの頬がこけ、フラフラになっているのは、深刻な脱水状態にあるからです。そして計量パス直後からすぐに水分補給を行い、試合当日までに体重を戻します。この「戻し幅」が大きいほど、試合当日に体格差で有利になれると考えられているため、多くの選手がこの危険なプロセスを経るのです。
計量失敗(体重超過)時のペナルティとキャッチウェイト
厳しい減量にもかかわらず、どうしても体重が落ちきらないことがあります。これを「計量失敗(ウェイトオーバー)」と呼びます。この場合、試合は中止になることもありますが、対戦相手が承諾すれば「キャッチウェイト(契約体重)」として試合が行われることが一般的です。
ペナルティとしては、体重超過した選手のファイトマネー(報酬)の20%から30%が没収され、対戦相手に支払われます。また、勝っても公式記録上のランキングが上がらなかったり、パフォーマンス・オブ・ザ・ナイトなどのボーナス対象外になったりと、キャリアにとって大きなマイナスとなります。体重超過は「プロとして失格」の烙印を押される行為であり、ファイターとしての信用を大きく損なうことになります。
UFCの階級変更やパウンド・フォー・パウンド(P4P)

特定の階級で王者になった選手が、さらなる強さを求めて階級を変えることがあります。また、体重が異なる選手同士の強さを比較する概念も存在します。ここでは、階級を超えた戦いのロマンについて触れます。
階級を上げて2階級制覇に挑む選手たち
UFCの歴史において、一つの階級を制覇した王者が、自分の体重階級を上げて(あるいは下げて)もう一つのベルトを狙う「二階級制覇(チャンプ・チャンプ)」への挑戦は、最大のエンターテインメントの一つです。
階級を上げると、相手の体格やパンチの重さが一気に増します。自分がこれまで武器にしていたパワーが通用しなくなったり、組み力で押し負けたりするリスクがあります。逆に、上の階級の選手が下の階級に落とす場合は、スピードのアドバンテージを得られる反面、過酷な減量によるスタミナ切れや耐久力の低下というリスクを負います。こうしたリスクを冒してでも、コナー・マクレガーやダニエル・コーミエのようなレジェンドたちは偉業を成し遂げてきました。
階級を超えた最強を決めるP4Pランキングの意味
「もし全員が同じ体重だったとしたら、誰が一番強いのか?」
この空想上の最強を決めるランキングが「パウンド・フォー・パウンド(Pound for Pound / P4P)」です。体重差を無視し、技術、実績、対戦相手の質などを総合的に評価して順位付けされます。
P4P 1位の価値
P4Pランキングの1位になることは、「地球上で最も優れた格闘技術を持つ人間」として認められることを意味します。ヘビー級王者は「人類最強」と呼ばれますが、P4P王者は「最高傑作」というニュアンスに近く、ファイターにとって最高の名誉の一つです。
階級新設や廃止の歴史と今後の展望
UFCの階級は最初から今の形だったわけではありません。初期の頃は階級分け自体が存在せず、小さな柔術家が巨大な力士と戦うこともありました。その後、安全面への配慮から徐々に階級が整備され、近年では女子階級の新設など、時代に合わせて変化を続けています。
現在でも、ファンの間では「165ポンド(スーパーライト級)」の新設を望む声などがあります。ライト級とウェルター級の間の体重差が大きすぎるため、その中間に階級を作ることで、より多くの選手に適正な戦いの場を提供できるという意見です。UFCの階級制度は決して固定されたものではなく、競技の進化とともにこれからも変わっていく可能性があります。
まとめ:UFC階級体重を知って観戦をもっと楽しもう

UFCの階級体重について、基本的な数字から裏側のルールまで解説してきました。ここで改めて要点を振り返りましょう。
- UFCはポンド法を採用しており、最軽量はフライ級(約56.7kg)、最重量はヘビー級(約120.2kg)。
- 階級ごとに「スピード重視」や「一撃必殺」などの明確な特徴や戦術の違いがある。
- タイトルマッチには1ポンドの超過許容がなく、完全にリミットを守る必要がある。
- 過酷な「水抜き」減量は、試合当日のリカバリーを含めた重要な戦略の一部となっている。
- 階級を超えた「パウンド・フォー・パウンド」の概念を知ると、最強論争がより面白くなる。
ただ殴り合っているように見える試合も、「あの選手は減量がきつかったはずだから後半失速するかも」「階級を上げたばかりだからパワー負けしていないか」といった視点を持つだけで、緊張感や深みがまったく違って見えてきます。ぜひ、次回のUFC観戦では、選手たちの体重や階級の背景にも注目して、世界最高峰の戦いを楽しんでください。



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