ハイドレーションテストとは?ボクシング・格闘技の減量ルールと安全性を徹底解説

ハイドレーションテストとは?ボクシング・格闘技の減量ルールと安全性を徹底解説
ハイドレーションテストとは?ボクシング・格闘技の減量ルールと安全性を徹底解説
知識・ルール・用語集

ボクシングやキックボクシングの世界で、最近よく耳にするようになった「ハイドレーションテスト」という言葉。特に大きな大会やプロの興行をチェックしている方なら、計量時にこの検査が行われているシーンを目にしたことがあるかもしれません。ハイドレーションテストとは、簡単に言うと選手の体が「過度な脱水状態になっていないか」を確認するための尿検査のことです。

かつての格闘技界では、計量直前にサウナや半身浴で数キロの水分を絞り出す「水抜き」が当たり前のように行われてきました。しかし、この過酷な減量は選手の健康に深刻なダメージを与え、時には命に関わる事故につながることもあります。そうした悲劇を防ぎ、選手が万全のコンディションでリングに上がれるように導入されたのがこのテストです。

この記事では、ハイドレーションテストの具体的な仕組みや合格基準、そして格闘家がこのテストをパスするために知っておくべき知識を分かりやすくまとめました。安全に競技を楽しみ、最高のパフォーマンスを発揮するための指標として、ぜひ参考にしてください。

  1. ハイドレーションテストとは?格闘技の計量時に行われる尿検査の目的
    1. そもそも「ハイドレーション」が意味するものとは
    2. なぜ格闘技界でハイドレーションテストが必要になったのか
    3. 脱水状態がアスリートの体に与える深刻なリスク
  2. ハイドレーションテストの仕組みと合格基準になる数値
    1. 測定に使われる「尿比重」という指標の意味
    2. 一般的な合格ラインと不合格になるボーダーライン
    3. 専用の測定器(屈折計)を使った具体的なテスト方法
  3. 各団体での導入状況とハイドレーション制度の違い
    1. 世界に先駆けて導入したONE Championshipの事例
    2. 日本国内のボクシングや格闘技での採用状況
    3. 当日計量とハイドレーションテストの密接な関係
  4. ハイドレーションテストで不合格にならないための正しい減量法
    1. 水抜きに頼りすぎない計画的な体重調整のコツ
    2. 普段の練習から意識したい水分摂取のタイミング
    3. 計量直前の食事と水分の絶妙なバランス
  5. ハイドレーションテストに落ちた場合の影響とペナルティ
    1. 試合中止やペナルティが発生する厳しい現実
    2. 再検査までの過ごし方とリカバリーの難しさ
    3. コーチやジム経営者が知っておくべき管理体制
  6. ハイドレーションテストとは安全な格闘技の未来を作るためのもの
    1. 選手の選手寿命を延ばすためのポジティブな変化
    2. 階級設定の見直しや適正階級での出場の重要性
    3. 応援するファンが知っておきたい選手の裏側
  7. まとめ:ハイドレーションテストとは選手の健康と最高のパフォーマンスを守るルール

ハイドレーションテストとは?格闘技の計量時に行われる尿検査の目的

格闘技の試合前に行われるハイドレーションテストとは、選手の体内の水分量が適切に保たれているかを測定する検査のことです。英語の「Hydration(水分補給・水和状態)」という言葉が由来で、日本語では「尿比重検査」とも呼ばれます。計量で体重をクリアするだけでなく、このテストに合格しなければ試合に出場できないというルールを設ける団体が増えています。

そもそも「ハイドレーション」が意味するものとは

ハイドレーションとは、平たく言えば「体の中にどれくらい水が満たされているか」という状態を指します。私たちの体は約60%が水分でできており、この水分は栄養を運んだり体温を調節したりする重要な役割を担っています。スポーツの世界では、この水分バランスが崩れるとパフォーマンスが著しく低下することが知られています。

格闘技におけるハイドレーションテストは、選手が極端な脱水症状に陥っていないかを科学的に証明するためのプロセスです。単に「喉が渇いているか」という主観的な判断ではなく、尿の中に含まれる成分の濃さを数値化することで、客観的に体の潤い具合を判定します。これにより、無理な減量による事故を未然に防いでいるのです。

選手にとっては、このテストをクリアすることが「戦える体であること」の証明になります。計量をパスしたとしても、ハイドレーションテストで不合格になれば、その選手は「脱水が激しく危険な状態」とみなされます。つまり、現代の格闘技においてハイドレーションは、体重管理と同じくらい重要な体調管理の指標となっているのです。

なぜ格闘技界でハイドレーションテストが必要になったのか

ボクシングやキックボクシングの世界では、長年「水抜き」という減量手法が取られてきました。計量直前に数時間で数キロの水分を体から抜くことで、本来の階級よりも重い選手が無理やり体重を合わせる手法です。しかし、この手法は脳や内臓に極めて大きな負担をかけることが、医学的な研究で明らかになってきました。

特に問題視されたのが、脳を守る「脳脊髄液」まで減少してしまうことです。脱水状態で頭部に強い打撃を受けると、脳が頭蓋骨に直接衝突しやすくなり、脳出血などの重大な事故を引き起こすリスクが飛躍的に高まります。過去には減量中の脱水が原因で命を落としたり、重い後遺症を負ったりする選手が世界中で後を絶ちませんでした。

こうした悲劇を繰り返さないために、一部の国際的な格闘技団体が「過度な脱水を禁止する」というルールを掲げ、ハイドレーションテストを導入しました。選手を過酷な減量から解放し、より健康的で安全な競技環境を作るための、格闘技界の大きな改革といえるでしょう。

脱水状態がアスリートの体に与える深刻なリスク

体内の水分が不足すると、血液がドロドロになり、心臓に大きな負担がかかります。また、体温調節機能が働かなくなるため、激しい運動をするとすぐに熱中症のような状態に陥ります。格闘家にとって致命的なのは、判断力やスタミナが大幅に低下し、本来の練習の成果を全く発揮できなくなることです。

さらに深刻なのは、腎臓などの内臓へのダメージです。急激な脱水を繰り返すと、将来的に慢性的な内臓疾患を抱えるリスクもあります。ハイドレーションテストは、目の前の試合に勝つためだけでなく、選手が引退後も健康な人生を送れるように守るための「防波堤」としての役割も果たしています。

また、脱水状態での試合はリカバリー(計量後の体重戻し)にも悪影響を及ぼします。一度カラカラに乾いた体に急激に水分や栄養を入れても、細胞がうまく吸収できず、逆に体調を崩してしまうケースも少なくありません。安全性を確保しつつ、高いパフォーマンスを維持するためには、このテストを意識した計画的な減量が不可欠なのです。

ハイドレーションテストの仕組みと合格基準になる数値

ハイドレーションテストは、主に「尿比重(にょうひじゅう)」という数値を測定することで行われます。尿比重とは、水(蒸留水)の重さを1.000としたとき、尿がどれくらい重いか(濃いか)を比べる指標です。体が脱水状態にあると、尿の中に含まれる老廃物などの濃度が上がり、数値が高くなります。ここではその基準値について詳しく見ていきましょう。

測定に使われる「尿比重」という指標の意味

尿比重の数値を見れば、その人の体が水分を保持しようとしているのか、それとも余分な水分を排出しているのかが分かります。健康な人の通常の尿比重は、おおよそ1.010から1.025程度の範囲に収まるとされています。しかし、激しい運動をしたり水分摂取を控えたりすると、この数値はすぐに上昇してしまいます。

格闘技の現場では、デジタル屈折計などの専用機器を使用して測定します。尿を数滴機器に乗せるだけで、瞬時に尿比重が算出される仕組みです。この測定方法は非常に精度が高く、選手がどれだけ「水を飲んでいるふり」をしても、体内の実際の水分状況を隠すことはできません。

選手はこの数値を通じて、自分の減量が「筋肉や脂肪を落とす正しいもの」なのか、それとも「水分だけを抜いた危険なもの」なのかを客観的に把握することができます。尿比重が高すぎるということは、血液が濃くなりすぎており、体内の循環がうまくいっていないサインなのです。

一般的な合格ラインと不合格になるボーダーライン

多くの団体で採用されているハイドレーションテストの合格基準値は、「尿比重 1.0250以下」とされています。団体によっては、より厳格に1.021以下を求める場合もあります。この数値を超えてしまうと、たとえ体重が規定階級以下であっても、その時点では「計量失格」あるいは「再検査」の扱いとなります。

【一般的な尿比重の判定目安】

・1.000〜1.020:良好な水分状態(合格レベル)

・1.021〜1.025:許容範囲内(多くの団体で合格)

・1.026以上:脱水状態と判定(不合格・再検査)

例えば、シンガポールを拠点とする格闘技団体「ONE Championship」では、このテストを非常に厳格に運用しています。尿比重が基準を超えた選手は、定められた時間内に水分を摂取して再検査を受けなければなりません。再検査でもパスできなければ、キャッチウェイト(契約体重の変更)での試合になるか、最悪の場合は試合中止となります。

この基準値があるおかげで、選手は「計量の瞬間だけ体重を合わせる」という古いやり方が通用しなくなりました。常に1.025以下をキープしながら、少しずつ体重を落としていく技術が求められるようになっています。

専用の測定器(屈折計)を使った具体的なテスト方法

テストの流れは非常にシンプルです。まず、計量会場に設置されたトイレなどで選手自身が採尿を行います。この際、不正(水の混入など)を防ぐために、検査員が立ち会う場合や、尿の温度を確認する場合もあります。その後、採取した尿を検査員に渡し、その場でデジタル屈折計を用いて測定が行われます。

屈折計は、光が液体を通る際の「屈折率」を利用して濃度を測る装置です。デジタル式の場合、液晶画面に「1.023」といった具体的な数字が表示されるため、誰の目にも結果が明らかです。結果が出るまでの時間はわずか数秒から数十秒程度であり、計量のプロセスを大きく遅らせることはありません。

ハイドレーションテストを受ける際は、尿の「出始め」ではなく、少し出した後の「中間尿」を採るのが一般的です。これは、出始めの尿には雑じり物が多く、正確な比重が出にくい場合があるためです。検査を受ける際は、落ち着いて指示に従いましょう。

また、最近では家庭用やチーム用の安価なポータブル屈折計も市販されています。プロ選手や意識の高いアマチュア選手は、自分の減量計画が正しいかどうかを確認するために、普段の練習から自分で尿比重をチェックしているケースも増えています。

各団体での導入状況とハイドレーション制度の違い

ハイドレーションテストの導入状況は、競技の種類や団体によって大きく異なります。世界的に見れば、より高い安全性を求める声が高まっており、今後この流れはさらに加速していくと予想されます。ここでは、どのような団体がどのような形式でテストを実施しているのかを紹介します。

世界に先駆けて導入したONE Championshipの事例

ハイドレーションテストを一躍有名にしたのは、アジア最大級の格闘技団体「ONE Championship(ワン・チャンピオンシップ)」です。2015年に所属選手が減量中の脱水症状で亡くなるという痛ましい事故が起きたことをきっかけに、同団体は世界で最も厳しいハイドレーション制度を導入しました。

ONEの特徴は、単にテストを行うだけでなく、「各階級の体重上限自体を引き上げた」点にあります。例えば、通常のバンタム級が61.2kgなのに対し、ONEのバンタム級は65.8kg(フェザー級相当)に設定されています。これは、選手が水分を保持した状態で無理なく落とせる体重をベースにしているためです。

この画期的なシステムにより、ONEでは「計量後の過度なリバウンド」がほぼ見られなくなりました。選手は試合当日も計量時とほぼ同じ体重で戦うことになり、脱水によるパワーダウンや事故のリスクを最小限に抑えています。この取り組みは、格闘技界全体の安全基準を一段階引き上げたモデルケースとして高く評価されています。

日本国内のボクシングや格闘技での採用状況

日本国内においても、ハイドレーションテストは徐々に浸透しつつあります。特に顕著なのがアマチュアボクシングです。日本ボクシング連盟(JABF)では、選手の健康を守る観点から、全日本選手権などの主要な大会で尿比重検査を実施しています。若年層の選手が多いアマチュア界では、教育的な意味合いも込めて厳格な管理が行われています。

プロの世界では、日本ボクシングコミッション(JBC)が、過度な減量を行った経験のある選手や再三の計量失敗を犯した選手に対して、予備検診時にハイドレーションテストを義務付けるなどの対策を講じています。また、キックボクシング団体である「RISE(ライズ)」や「K-1」などでも、タイトルマッチや特定のトーナメントにおいて導入の検討や実施が進んでいます。

ただし、全ての興行で実施されているわけではありません。検査コストや運営の手間がかかるため、小規模な大会ではまだ普及していないのが現状です。しかし、ファンの間でも「選手の安全」を重視する声が強まっており、今後はより多くの団体が公式ルールとして採用していくことが期待されています。

当日計量とハイドレーションテストの密接な関係

ハイドレーションテストの有効性を最大限に高めるために、多くの団体が「当日計量」とセットで運用しています。従来の「前日計量」では、計量直後に大量の水分と食事を摂ることで、1日で5kg以上も体重を戻すことが可能でした。これでは、計量時にどれだけ脱水していても、試合までに無理やり回復させてしまうことができます。

一方、当日計量や試合直前のハイドレーションテストを行う場合、選手は「水分を含んだ健康な状態」で体重をクリアしなければなりません。もし無理な水抜きをすれば、テストで確実に不合格になります。つまり、ハイドレーションテストは「計量日だけでなく、普段から適切な体重を維持すること」を選手に強制するシステムなのです。

このように、テストの実施タイミングも非常に重要なポイントです。計量の2日前、1日前、そして当日と複数回にわたってチェックを行う団体もあり、選手は常に自分の体のコンディションと向き合い続けることが求められます。これは厳しいルールに見えますが、結果として選手のベストパフォーマンスを引き出すことにつながっています。

ハイドレーションテストで不合格にならないための正しい減量法

ハイドレーションテストをパスするためには、これまでの「最後は気合で水分を抜く」という考え方を捨てなければなりません。科学的な根拠に基づいた、時間をかけた計画的な調整が必要です。ここでは、テストに合格しつつ、しっかりと体重を落とすための具体的なアドバイスをまとめました。

水抜きに頼りすぎない計画的な体重調整のコツ

最も大切なのは、減量の全工程において「体脂肪を落とす期間」を十分に設けることです。ハイドレーションテストがある場合、計量直前の水分調整で落とせるのは、せいぜい体重の2〜3%程度と考えておきましょう。それ以上の減量が必要な場合は、数週間前から食事管理とトレーニングで脂肪を燃焼させておく必要があります。

具体的には、計量の1ヶ月前から段階的にカロリー摂取を抑え、徐々に体重をターゲットに近づけていきます。計量1週間前の時点で、リミットからプラス3kg以内まで落としておくのが理想的です。この段階で水分を制限しすぎると代謝が落ちて脂肪が燃えにくくなるため、水分はむしろ多めに摂取し続けるのがコツです。

また、塩分(ナトリウム)の管理も重要です。塩分を摂りすぎると体が水分を溜め込もうとするため、計量の数日前から徐々に塩分を控えることで、体内の余分な水分を自然に排出させることができます。これを「ウォーターローディング」と組み合わせることで、脱水させずに体重を落とすことが可能になります。

普段の練習から意識したい水分摂取のタイミング

「水を飲めば体重が増える」と恐れて、練習中に水分を摂らない選手がいますが、これはハイドレーションテスト対策としては逆効果です。慢性的な脱水状態にあると、体は「次に水が入ってきたら逃さないようにしよう」と、逆に水分を溜め込みやすい体質になってしまいます。

普段の練習では、こまめに水分を補給し、常に「尿の色が薄い黄色か透明」な状態を保つようにしましょう。喉が渇いたと感じる前に飲むのが基本です。また、練習後のリカバリーでも、失った水分量以上の補給を心がけてください。日常的に高いハイドレーション状態を維持することで、代謝が良くなり、減量もスムーズに進みます。

練習前後で体重を量り、どれくらい水分が減ったかを確認する癖をつけましょう。減った分の1.5倍程度の水分を数時間かけて摂取するのが、理想的なリカバリー方法です。

また、ただの水を飲むだけでなく、電解質(ナトリウム、カリウム、マグネシウムなど)を含むスポーツドリンクや経口補水液を賢く利用しましょう。電解質が不足すると、水分を摂取してもすぐに尿として出てしまい、細胞まで潤いません。ハイドレーションテストの数値は、細胞内の水分量に大きく左右されることを覚えておいてください。

計量直前の食事と水分の絶妙なバランス

計量前日は、食事の「量(重さ)」を最小限にしつつ、必要な栄養を摂る工夫が求められます。食物繊維の多い野菜などは腸内に残りやすく体重を増やしてしまうため、この時期は避けるのが無難です。代わりに、消化が良くエネルギーになりやすい炭水化物を少量、数回に分けて摂取します。

水分の摂り方については、計量前日の夜から当日の朝にかけて徐々に絞っていきますが、完全に断つのは危険です。少量の水を口に含んで喉を潤しつつ、尿比重を意識します。もし、尿が濃くなってきたと感じたら、たとえ体重が少し増えても少量の水を飲む勇気が必要です。ハイドレーションテストで落ちてしまえば、元も子もないからです。

最近では、サウナなどで汗を流した後でも、あえて経口補水液を少しずつ飲むことで尿比重をコントロールする選手もいます。一気に飲むと体重が増えるだけですが、一口ずつ時間をかけて摂取すれば、比重を下げつつ体重への影響を最小限に抑えられます。こうした細かいテクニックも、現代の格闘家には求められています。

ハイドレーションテストに落ちた場合の影響とペナルティ

もし、万が一ハイドレーションテストで不合格(尿比重が基準値超え)になってしまった場合、どのようなことが起きるのでしょうか。これは団体によってルールが異なりますが、基本的には選手にとって非常に厳しい状況が待っています。事前の準備を怠った代償は、想像以上に大きいものです。

試合中止やペナルティが発生する厳しい現実

最も深刻なケースは、試合そのものが中止(キャンセル)になることです。ハイドレーションテストを導入している目的は「危険な状態の選手をリングに上げないこと」ですから、不合格=出走資格なしと判断されるのは当然の帰結です。この場合、ファイトマネーが支払われないだけでなく、対戦相手やプロモーター、ファンに対しても多大な迷惑をかけることになります。

試合が行われる場合でも、厳しいペナルティが課されることが一般的です。よくあるパターンは以下のようなものです。

・ファイトマネーの数パーセント(20〜50%程度)を没収し、対戦相手に譲渡

・勝ってもタイトル獲得の権利を剥奪(王座決定戦などの場合)

・公式記録として「減量失敗によるペナルティ」が残る

また、不合格になった選手は「キャッチウェイト(契約体重の引き上げ)」を打診されることがありますが、これも対戦相手が合意しなければ成立しません。相手からすれば、ルールを守って仕上げてきたのに、ルールを破った相手と不利な条件で戦う理由はないからです。ハイドレーションテストでの失敗は、競技者としての信頼を失墜させる行為であると認識しておくべきです。

再検査までの過ごし方とリカバリーの難しさ

多くの団体では、一度不合格になっても数時間後の「再検査」が認められています。選手はこの短時間で、尿比重を下げるために水分を摂取しなければなりません。しかし、ここで大きなジレンマが生じます。比重を下げるために水を飲めば、当然ながら体重が増えてしまうのです。

体重をリミット内に収めつつ、尿比重も基準値以下にするという「針の穴を通すような調整」を、計量会場で行うのは極めて困難です。水を飲んで比重を下げ、運動して汗をかいて体重を落とそうとすれば、また脱水が起きて比重が上がってしまいます。この負のループに陥ると、精神的にも肉体的にも追い詰められ、パフォーマンスはボロボロになります。

再検査を待つ間、選手は絶望的な気持ちで水を一口ずつ飲み、祈るような思いで次の採尿に臨みます。このような状態で良い試合ができるはずもありません。ハイドレーションテストは「会場で帳尻を合わせるもの」ではなく、「会場に行く前にクリアしておくもの」であることを肝に銘じてください。

コーチやジム経営者が知っておくべき管理体制

ハイドレーションテストの失敗は、選手一人の責任ではありません。指導するコーチやジム経営者にとっても、大きな管理責任が問われます。選手が無理な減量をしていないか、日頃から尿の色や体調の変化をチェックする体制を整えておく必要があります。

特に若い選手や経験の浅い選手は、試合への意欲が勝るあまり、体調の異変を隠して無理をしてしまいがちです。指導者は、ハイドレーションテストの意義を正しく教育し、「健康を損なってまで体重を合わせることに価値はない」というメッセージを常に発信し続けるべきです。具体的には、試合前の数日間は定期的に屈折計で数値をチェックさせるなどの対策が有効です。

また、ジムとして適切な階級選択をアドバイスすることも重要です。常にハイドレーションテストのボーダーライン上にいるような選手は、本来の適正階級よりも下の階級を選んでいる可能性が高いです。選手の将来を考えるならば、一つ上の階級でしっかりと筋肉をつけて戦えるよう導くのも、コーチの重要な役割といえるでしょう。

ハイドレーションテストとは安全な格闘技の未来を作るためのもの

ここまでハイドレーションテストの仕組みやルールについて解説してきましたが、大切なのはこれが単なる「厳しいノルマ」ではないということです。この制度の本当の目的は、選手の命を守り、格闘技という素晴らしいスポーツが社会に受け入れられ続けるための「安全性の担保」にあります。

選手の選手寿命を延ばすためのポジティブな変化

過酷な脱水を伴う減量は、確実に選手の選手寿命を縮めます。内臓疲労が蓄積すれば、若くして引退を余儀なくされることも珍しくありません。しかし、ハイドレーションテストによって計画的な減量が定着すれば、選手は常に高いコンディションを維持しやすくなります。それは結果として、より長く、より高いレベルで競技を続けることにつながります。

実際、ハイドレーションルールが導入されてから、計量失敗のニュースは(一時的には増えたものの)長期的には減少傾向にあります。選手たちが「ルールが変わった」ことを理解し、自分の体との向き合い方を変え始めたからです。水分に満ちた元気な体で戦う試合は、スピード感やパワーも格段に向上し、観客にとってもより魅力的なものになります。

安全性が高まることで、親が子供に格闘技を習わせる際のアレルギーも少なくなります。「格闘技=危険な減量」というネガティブなイメージを払拭し、健全なアスリートが活躍するスポーツとして発展していくために、このテストは不可欠なステップなのです。

階級設定の見直しや適正階級での出場の重要性

ハイドレーションテストの普及に伴い、格闘技界全体で「階級」に対する考え方が見直されつつあります。無理に水分を抜かなければパスできないのであれば、それはその選手にとっての「適正階級ではない」ということが明確に数字で示されるようになったからです。

選手は、自分の骨格や筋肉量に合わせた、本来戦うべき階級で勝負するようになります。これにより、「減量の上手さ」ではなく「格闘技の技術や強さ」そのものを競い合うという、スポーツの本来あるべき姿に近づいています。階級を一つ上げることは勇気がいることかもしれませんが、ハイドレーションを維持した状態で戦うパフォーマンスの向上は、その不安を打ち消してくれるはずです。

また、団体側も選手が無理なく出場できるよう、階級の細分化やリミットの調整を行う動きが出ています。選手と団体が協力して、健康的な競技環境を作り上げていく。そんなポジティブなサイクルが、ハイドレーションテストという一つの検査から生まれているのです。

応援するファンが知っておきたい選手の裏側

私たちファンにとっても、ハイドレーションテストを知ることは大きな意味があります。計量シーンを見たときに、「この選手はハイドレーションもクリアしたんだな。それなら明日は最高の状態で出てきてくれるはずだ」と、より深い視点で試合を楽しめるようになるからです。

選手がどれだけ過酷なルールの中で自分を律し、科学的に体調を管理しているか。その努力を知ることで、リングに上がる選手たちへの敬意もより深まることでしょう。ただ「痩せている」ことではなく、「強く、潤った体でそこに立っている」ことの凄さを、ぜひ感じ取ってください。

格闘技は、進化し続けています。技術だけでなく、選手の安全を守るためのルールも日々アップデートされているのです。ハイドレーションテストは、選手が「命を懸けて戦う」のではなく「命を大切にしながら、最高の自分を表現する」ための、格闘技界からの愛ある新常識なのです。

まとめ:ハイドレーションテストとは選手の健康と最高のパフォーマンスを守るルール

まとめ
まとめ

ハイドレーションテストとは、格闘家の命と健康を守るために導入された、尿比重による水分状態の検査です。かつての主流だった過酷な「水抜き」を抑制し、選手が脱水症状のない健康的なコンディションで試合に臨めるようにすることを目的としています。このテストの登場により、格闘技の減量は「根性」から「科学的な管理」へと大きくシフトしました。

合格基準となる尿比重 1.0250以下をクリアするためには、短期間の絶水ではなく、数週間前からの計画的な食事管理と水分摂取が不可欠です。万が一不合格になれば、試合中止やファイトマネー没収といった厳しいペナルティが課されるため、選手やコーチにはこれまで以上に高いプロ意識が求められます。

このルールは一見すると選手を苦しめるものに思えるかもしれませんが、その本質は「選手寿命の延長」と「競技の安全性向上」にあります。適切なハイドレーションを維持することで、脳へのダメージを軽減し、スタミナや集中力を最大限に引き出すことができます。ファンとしても、このルールを理解することで、選手たちのコンディショニングへの努力をより深く理解し、応援することができるでしょう。安全で熱い格闘技の未来のために、ハイドレーションテストは今や欠かせない重要な仕組みとなっています。

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